1丁の拳銃をめぐる暴力アクション映画「ワイルド・バレット」(06)。ウェイン・クラマー監督、主演のポール・ウォーカーが再び組んだのが「スティーラーズ」(13)だ。どちらも米国南部の質屋を舞台に、欲望と復讐が男たちの人生を横切る。シニカルでブラック・ユーモアあふれる犯罪ドラマだ。
ウォーカーはひげづらの薬物ジャンキーに
質屋のアルトン(ヴィンセント・ドナフリオ)は、常連客のジョンソン(シャイ・マクブライド)と馬鹿話に興じていた。そこへライフルを持ったバーノン(ルーカス・ハース)が入って来る。強盗と勘違いしたアルトンは身構えるが、バーノンはライフルと引き換えに金を借りに来たのだ。
白人至上主義者の強盗・ランディ(ケヴィン・ランキン)、幻覚に悩まされる仲介役(ポール・ウォーカー)は、なじみの麻薬密売人(ノーマン・リーダス)から金の強奪を目論んでいた。しかし、バーノンがライフルを質入れしたため計画が狂い、あわてて仕切り直して強盗に踏み切る。
同じ日。数年前に妻を誘拐されたリチャード(マット・ディロン)は、質屋で見つけた指輪を手がかりに、誘拐犯のジョニー(イライジャ・ウッド)を探し当て、妻を救うため屋敷に乗り込む。プレスリーを崇拝する無一文のドサ回り芸人リッキー(ブレンダン・フレイザー)は、魂の救済をうたう男に出会う──。
「風が吹けば桶屋がもうかる」。この言葉を連想させる作風だ。描かれるのは南部の町のある一日。各パートがアメリカン・コミック風のイラストから実写ドラマへ移行する。ジョージ・A・ロメロ監督のオムニバスホラー映画「クリープショー」(82)に似たスタイルだ。質屋、行き当りばったりの強盗団、妻を誘拐された男、エルビス・プレスリーの物まね芸人。一見何のつながりもない男たちの行動が微妙に交差し、影響を与え合い、大団円を迎える。
出演者はみな過去のイメージを覆す姿で登場する。主演は昨年交通事故で急逝したウォーカー。過去の精かんなイメージとはほど遠く、ひげづらの薬物ジャンキー。間抜けな役で意表を突かれる。「ハムナプトラ」(99)のブレンダン・フレイザーは、プレスリーの物まね芸人。長髪にジャンプスーツの70年代スタイルで、時代遅れの男を演じる。
「ロード・オブ・ザ・リング」(01)の美青年イライジャ・ウッドは、連続女性誘拐・監禁犯。まともなのはマット・ディロンぐらい。町の人々を含めて個性的なキャラクターが隠し味となり、観客に小刻みなジャブを食らわせる。ひとくせある構成は「パルプ・フィクション」(94)の流れをくんでいる。タランティーノ作品が好きな人にはお勧めだ。
「スティーラーズ」(2013年、米国)
監督:ウェイン・クラマー
出演:ポール・ウォーカー、ブレンダン・フレイザー、イライジャ・ウッド、ビンセント・ドノフリオ、ノーマン・リーダス
2014年1月18日、シネマート六本木、心斎橋ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。