彼はその瞬間に恋に落ちていた。あぁ、もう傍から見ていてもドキドキ感が伝わってくる。ほら、ほっぺたが真っ赤になってるゼ、あらあら耳の先までマッカッカになっちゃって。あなた、幾つよ。これまでに数多くの女性を愛してきたでしょう。だって50歳に近いもの。でも、こうやってまた一つ燦然と輝く太陽が現れて、慈悲という水が与えられ、スクスクと恋心を形成する種は発芽し、小さな芽という恋がここに誕生してしまったよ。
自分がふいに恋に落ちる瞬間もいいけど、他人が恋におちた瞬間を見るのもこれまた楽し。ほら、いま必死に汗を拭いたり、水を飲んだりして隠そうとしているけれど、眼鏡の奥で瞳がキラキラ輝いているのを私は見逃しませんから。ねっ、あなた、いま何度目かの恋に落ちたでしょ。そしてひた隠しに平然を装っている。カワイイんだから~、もう!
ストレスフルな空気を振りまき、とにもかくにも疲れてる
仕事をしていてたま~にミラクルな確率で仕事相手と恋に落ちる人を見かける時がある。それはとても幸せな瞬間。そしてグワ~っと奈落の底に引きずり込まれ、人格否定され、一から出直してこいと顔をひっぱたかれるような感じに襲われる瞬間。
「顔、死んでますよ」
先日、私は知り合いのディレクターにそう指摘された。ちょっと、いくらなんでも言っていいことと悪いことがあるわよと憤慨し、笑いながらプロデューサーに言うと「あいつ、言い得てるな」とポツリ。おいぃ~、それじゃコチトラ救われない。仕事のしすぎで朦朧としていても「そんなことないよ、あいつヒドいな」ぐらい言ってほしかったのに。
平然とプロデューサーに言い切られ、私はショボンとして疲れ切った老体にムチ打って仕事を続けるほかないのであった。そんな時に、人が恋に落ちる瞬間を目撃。それもお互い家庭を持ついい大人同士である。鼓動がドクンドクンと伝わってきそうなほど、お父さんいま恋に落ちてますっていう状況。
気になるお相手は、年齢を感じさせない女性。でも、決して美魔女ではない。清潔感があって、上品で、相手を思いやる精神に満ちあふれ、男に媚びを売らず、甘く優しい声で物腰柔らかく話し、物事をプラスに捉え、小さな喜びを発見する能力に長け、それを人に分け与えようとし、かつでしゃばった様子はない。そして最大の特徴は「疲れていない」
これ、全部、自分と正反対。ガハハと手を大袈裟に打って笑い、ピリピリしたストレスフルな空気を醸し出し、下品でキツイ口調で話し、つまんね~とかバカじゃないのとマイナス思考で、とにもかくにも疲れている。なんたって、男に顔が死んでると言われる女だもの。
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。