映画「ビフォア・ミッドナイト」/ジェシーとセリーヌが魅せるちょっぴりほろ苦い40代の現実
ジェシーとセリーヌが、9年ぶりに戻ってきた。二人が出会って恋に落ちた「ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)」(95)。9年後、再会して愛を語った「ビフォア・サンセット」(94)。さらに9年後、親になった二人を描く「ビフォア・ミッドナイト」(13)。イーサン・ホーク、ジュリー・デルピー、リチャード・リンクレイター監督が、時を越えて再び結集した。
米国人のジェシー(ホーク)とフランス人のセリーヌ(デルピー)。ウィーンで出会い、パリで再会し、今はギリシャで一緒に暮らす。出会いから18年、双子の娘に恵まれていた。ジェシーは人気小説家、セリーヌは環境保護活動家。ジェシーは別れた前妻との間に息子もいる。セリーヌは仕事の先行きに頭を痛め、ジェシーは離れて生活する息子が気がかり。子供のこと、仕事のこと、将来のこと。話し続けるうち、ふとした一言で二人の間に暗雲が漂う──。
長年一緒にいる関係がいかに大変か―。
きっちり9年ごとに綴られてきた物語。運命の出会い、再会を経た二人を、客席から時に胸躍らせ、時にやるせなく見守ってきた人も多いだろう。彼らが今回見せるのは、ちょっぴりほろ苦い40代の現実だ。怒涛の会話劇は健在。ジェシーが運転する車内で、友人たちとの食事のテーブルで、夕暮れの散歩道で。言葉のキャッチボールは途切れることがない。
しかし、かつては甘い思いを乗せた会話が、今は一触即発の火種になっている。息子を思うあまり、米国への引越しを提案したジェシー。返すセリーヌの言葉が象徴的だ。「時限爆弾に点火されて、幸せな人生は崩壊よ」。相手を愛していないわけではない。リンクレイター監督は言う。「長年一緒にいる関係がいかに大変か。(過去と)同じロマンスではない。それでもこの二人には特別な何かがあると思う」
「特別な何か」は恐らく、誰もが共感できる何かなのかもしれない。そこには憧れと愛情が混じっている。美しいジェシーとセリーヌは旅先で出会い、かけがえのない相手になった。ホークとデルピー、リンクレイター監督は9年ぶりに集い、それぞれの「蓄積」を出し合い、共同で脚本を書いた。観客はジェシーとセリーヌに思いをはせ、自らの9年を振り返り、映画館へいそいそと出かけて行くのだろう。
ジェシーとセリーヌのこの先は? 監督は言う。「今は僕がそばから離れ、あのまま二人をしゃべらせておけば、そのうち何かが見えてくるだろう。あえて見通しを立てずにいるんだ。どうなるかなんて、今は分からないよ」。まるで人生のように。
「ビフォア・ミッドナイト」(2013年、米国)
監督:リチャード・リンクレイター
出演:イーサン・ホーク、ジュリー・デルピー、シーマス・デイビー=フィッツパトリック、ジェニファー・プライアー、シャーロット・プライアー
2014年1月18日、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿バルト9ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトで。
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。