凍て付く冬のボスニア・ヘルツェゴビナ。少数民族ロマのナジフは、鉄くず拾いで生計を立てている。妻セナダ、幼い娘二人とともに、貧しいながらも幸せに暮らしていた。
しかしある日、妊娠中のセナダが腹痛を訴える。病院へ連れて行くと流産と分かる。医師は手術を勧めるが、ナジフは健康保険証を持っていない。高額な手術費を払うのは無理だった。「分割払いにしてくれないか」。ナジフの懇願にも医師は冷たい態度。仕方なくそのまま帰宅したが、セナダの具合は悪くなるばかり。ナジフは嘆く。「なぜ神様は貧しい者ばかり苦しめるのだ」
別の病院、支援組織と奔走するが、なかなか解決策が見つからない。なんとか妻を助けたい。大雪に足をとられながら、死に物狂いで鉄くずを拾うナジフ。そこへセナダの実家から電話が入る──。
ベルリン国際映画祭で3賞獲得
ロマの家族の窮状と希望を描いた「鉄くず拾いの物語」。ボスニア紛争終結から20年近く、今も経済は回復していない。社会の底辺にいるロマの人々は、苦しい暮らしを強いられている。物語はシンプルだ。つつましくも温かい家庭が、妻の病で追い込まれていく。病院の冷たい対応。貧困層を苦しめる理不尽。それでもナジフはあきらめず、なんとか道を探そうとする。
物語は2011年、現地の新聞に掲載された実話がもとになっている。ダニス・タノヴィッチ監督は当事者たちを俳優として起用し、一連の出来事を再現した。監督は語る。「ボスニアの差別を示したかった。社会のあらゆる疎外や差別について、私たちは議論を促すだけでなく、被害者の置かれた状況を、感情的に理解しなければならない」
一方でこの物語は、力強い家族の愛を見せてくれる。夫から妻へ、妻から夫へ、親から子供たちへ。画面からにじむ愛情は、私たちをほっと和ませる。ナジフの細やかな妻へのいたわりは、雪を溶かすように温かい。
13年のベルリン国際映画祭で審査員グランプリ、主演男優賞など3賞を獲得した。
「鉄くず拾いの物語」(2013年、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ=フランス=スロベニア)
監督:ダニス・タノヴィッチ
出演:セナダ・アリマノヴィッチ、ナジフ・ムジチ
2014年1月11日、新宿武蔵野館ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。