2013/12/12

映画「鑑定士と顔のない依頼人」/複雑に絡み合う謎、伏線、違和感はすべてラストに集約 見ごたえのあるミステリー

大ヒット作「ニュー・シネマ・パラダイス」(89)のジュゼッペ・トルナトーレ監督。最新作「鑑定士と顔のない依頼人」は、周到に練られたミステリーだ。主演は「英国王のスピーチ」(10)のジェフリー・ラッシュ、音楽は「ニュー・シネマ・パラダイス」と同じエンニオ・モリコーネが担当した。

隠し部屋から聞こえる「声」だけの指示

初老の美術品鑑定士ヴァージル(ジェフリー・ラッシュ)は、どんな贋作も一瞬で見抜く腕を持つ。オークションを仕切る美術界のカリスマだ。その一方、裏で相棒のビリー(ドナルド・サザーランド)と組み、出された美術品を安値に設定。自ら落札する悪質な収集家でもあった。

ヴァージルはプライドが高く、人付き合いが苦手で、独身を貫いている。行きつけのレストランに自分専用の食器を用意。毎晩一人きりでディナーを楽しんでいた。潔癖症で常に手袋をはめ、自宅はホテルのように生活感がない。家には最新の防犯設備に守られた隠し部屋があり、おびただしい数の女性の肖像画が壁を埋め尽くしていた。ヴァージルの日課は女性たちの前に座り、その姿を眺めることだった。

そこに若い女性から一本の電話が入る。「両親が残した美術品を査定してほしい」。依頼人はクレア(シルビア・ホークス)。ところがなぜか彼女はヴァージルの前に現れない。廃墟のような屋敷の隠し部屋から、声だけで指示を出す。"広場恐怖症"という奇妙な病を患い、人前に姿を見せない不思議な女性だった──。

「ニュー・シネマ・パラダイス」のようにノスタルジックな作品を得意とする一方、「題名のない子守唄」(06)のようなミステリーにも手腕を発揮するトルナトーレ。今回は恋を知らない初老の偏屈男と、娘ほど年の離れた引きこもり女性の恋愛だ。

ヴァージルは言う。「贋作には作者のしるしが隠れている」と。その言葉通り、ストーリーには人をだます仕掛けと伏線が幾重にも張りめぐらされている。染められた髪の毛、隠し部屋、屋敷にあった歯車、画家の道を断たれた男、何でも記憶するカフェの女、謎に満ちた依頼人。複雑に絡み合う謎、伏線、違和感はすべてラストに集約され、鮮やかに種が明かされる。

トルナトーレ監督の演出は、円熟味を増している。緊張感を維持しながら、饒舌な語り口で観客を虜にする。冒頭とラストで別人のように異なるジェフリー・ラッシュ。変幻自在な演技により、見ごたえあるミステリーに仕上がった。


「鑑定士と顔のない依頼人」(2013年、イタリア)
監督:ジュゼッペ・トルナトーレ
出演:ジェフリー・ラッシュ、ジム・スタージェス、シルビア・ホークス、ドナルド・サザーランド
2013年12月13日、TOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

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