「Who's the terrorist?(誰がテロリストだ?)」。2001年、1本の動画がインターネット上に公開された。パレスチナのヒップホップ・グループ「DAM」が歌ったこの曲は、瞬く間に100万を超すダウンロードを記録。中東の若者たちの支持を集める。「自由と壁とヒップホップ」は、DAMを中心としたパレスチナのヒップホップ事情を追ったドキュメンタリーだ。
撮影テープを取り上げられた仲間も
DAMは1990年代後半、イスラエルのパレスチナ人地区で結成された。メンバーは3人。占領、貧困、差別。生きる希望を見出せない若者たちのため、DAMは歌い続ける。親が服役中で行き場を失った子供たち。社会的に虐げられる女性たち。歌声はあらゆる理不尽に疑問を投げかけ、闘う人々の背中を押す。
DAMの音楽は壁で隔てられたガザ、ヨルダン川西岸地区に「囲い込まれた」人々へも伝わっていく。絶望的な現状に立ち向かい、自由を手にするため、若者たちは声を上げる。抑圧と差別で麻痺していた感情が、歌うことで刺激され、思考が呼び覚まされる。ヒップホップのリズムに乗った声は、大きなうねりとなり広がっていく。
しかし、そんな彼らの思いを、壁が容赦なく遮断する。ほんの数キロの移動も、検問所通過に手間取り、何時間もかかる現実。DAMが準備したパレスチナ初の音楽フェスティバルに、出演者は集まれるるのか──。
監督はパレスチナ人、シリア人の両親を持つ米国人女性、ジャッキー・リーム・サッローム。今回が長編デビューとなる。パレスチナでの撮影は困難を極めたという。「パレスチナ系米国人の私が、イスラエルに入るというだけで大変だった。何の説明もなく故郷へ戻ることを禁じられる。(撮影した)テープを取り上げられた仲間もいた」と振り返る。
完成までに5年。それでも監督は「私たちに連絡をくれたコミュニティー、個人、文字通り何千ものつながりに興奮している」と話す。音楽は壁を越え、人々をつないだ。映画はパレスチナから遠く離れた日本にも、現地の熱をダイレクトに伝えてくれる。
「自由と壁とヒップホップ」(2008年、パレスチナ・米)
監督:ジャッキー・リーム・サッローム
出演:DAM、アビール・ズィナーティ、PR(パレスチニアン・ラッパーズ)
2013年12月14日、シアター・イメージフォーラムほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。