卑怯で最低な英スコットランド人刑事ブルース・ロバートソン(ジェームズ・マガボイ)。クリスマスの頃、日本人留学生殺人事件が発生。捜査指揮を任されたブルースは、解決して出世しようと目論む。やがて目撃者とみられる謎の女が急浮上。衝撃の真実が明らかになる。
観客を選ぶ「ひとクセ」ある作品
題名の「フィルス」は英国のスラングで、汚物、道徳的な堕落を意味し、暗に警察を指す。原作はダニー・ボイル監督の出世作「トレインスポッティング」(96)と同じアービン・ウェルシュ。出演は「つぐない」(07)、「X-MEN:ファースト・ジェネレーション」(11)のジェームズ・マガボイ、「リトルダンサー」(00)のジェイミー・ベル。スコットランド出身ジョン・S・ベアードの初長編監督作品だ。
設定は日本人留学生殺人事件とシンプルだが、描き方は尋常ではない。ブルースの壊れた行動、異常な性格が物語全体を支配する。出世のために同僚や友人を陥れ、裏工作や不正申告は日常茶飯事。欲望のままポルノ、売春、不倫、アルコール、薬物にのめりこむ。刑事としてあるまじき最低男だ。
ブルースの奇行の原因は、私生活に垣間見える。居間でポルノを見て欲望を処理した後、突然違うビデオを見始める。別れた妻と息子の映像だ。涙を流すブルース。彼は出世し、妻とよりを戻そうとしていた。表向きはろくでなしだが、心は悲しみに満ちている。精神のバランスを崩し、現実と妄想の狭間をさまよう状態だった。さらに人に言えない秘密も抱えていた──。
英国のスラングや下ネタがふんだんに盛り込まれ、ブラックな要素が強い作品だ。マカボイもこれまでのイメージを一転。転落した男を強烈に演じるため、引いてしまう人もいるかもしれない。
破天荒の向こうに見える結末。単純なブラックコメディーではなく、心に闇を抱えた男の悲喜劇だったと分かる。原作者は同じだが、万人受けした「トレインスポッティング」と違い観客を選ぶかもしれない。個性的でひとくせある作品だ。
「フィルス」(2013年、英国)
監督:ジョン・S・ベアード
出演:ジェームズ・マカボイ、ジェイミー・ベル、イモージェン・プーツ、ジョアンヌ・フロガット、ジム・ブロードベント
2013年11月16日、シネマライズほかで公開。作品の詳細は公式サイトで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。