2013/11/11

映画「いとしきエブリデイ」/"毎日"の積み重ねこそ愛おしく尊いことを静かに証明してくれる

ある日本人監督が言った。「(イランのアッバス・)キアロスタミの映画を初めて観た時、『なんだ、子供を撮るのって簡単だな』と思った。自分が監督になって分かった。一生彼のようには撮れないと」

英国東部・ノーフォークの小さな村。まだ薄暗い早朝、幼い4兄弟が起きてくる。ステファニー、ロバート、ショーン、カトリーナ。子供たちは母のカレン(シャーリー・ヘンダーソン)に手を引かれ、寒空の下に電車を乗り継ぎ、服役中の父・イアン(ジョン・シム)に会いに行く。

刑務所の面会室で、イアンは子供たちを抱きしめる。ロバートは「家長はお前だ」と言われ緊張する。末っ子のカトリーナは「パパ、どこにも行かないで」と泣き出してしまう。面会時間はあっという間に過ぎ、子供たちは母に手を引かれて家路につく。

子供4人を育てるため、カレンは昼はスーパーで、夜はパブで働いている。いるべき夫が不在の重荷。イアンの刑期は5年。子供たちが成長するにつれ、喜びとともに不安も広がっていく──。

観客は知らず知らずに彼らの隣人となるだろう

マイケル・ウィンターボトム監督の「いとしきエブリデイ」。実の兄妹4人を主演に迎え、5年かけて撮った家族の物語だ。イアンの刑期は5年。父がいない間も、子供たちはすくすく育つ。男の子には反抗心が、女の子には恋心がめばえる。

対照的に父と母は、心身ともに危うい橋を渡っている。父は塀の中で日々をやり過ごし、母は仕事と子育てに忙殺される。繰り返される毎日。観客は知らず知らずに彼らの隣人となり、時にはらはらと、時にほほえんで、この「どこにでもいそうな」家族を見守るだろう。

原題は「Everyday」。その積み重ねこそ愛おしく尊いことを、ウィンターボトム監督は静かに証明する。「父の不在を埋める孤独に愛が勝つことを、5年かけて証明したかった」と監督。マイケル・ナイマンの穏やかな音楽が、彼らをゆっくり包んでいく。

あの家族は、あなたのすぐそばにいるかもしれない。冒頭の言葉通り、監督は鮮やかな手腕で夢を見せる。そして観客はわが毎日を振り返り、自分の場所に戻っていくのだ。


「いとしきエブリデイ」(2012年、英国)
監督:マイケル・ウィンターボトム
出演:シャーリー・ヘンダーソン、ジョン・シム、ショーン・カーク、ロバート・カーク、ステファニー・カーク、カトリーナ・カーク
2013年11月9日、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで公開。作品の詳細は公式サイトまで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

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