野々宮家の一人息子・慶多のお受験で映画は幕を開ける。一流大学を卒業し、大手建設会社に勤め、都心の高級マンションで暮らす家族。父の野々宮良多(福山雅治)は、「すべて能力と努力で勝ち取った」と自負し、息子にもエリートへの道を作り始めていた。
そんな矢先、慶多が生まれた産院から連絡が入る。赤ん坊の取り違えが発覚したのだ。DNA(遺伝子)鑑定の結果、慶多は他人の子と分かった。母みどり(小野真千子)は、気付かなかった自分を責める。
良多とみどりは早速、取り違え先の斎木雄大(リリー・フランキー)と妻ゆかり(真木よう子)に会う。夫妻は小さな電気店を営んでいた。その身なりとがさつな態度に、良多は思わず眉をひそめる。一方、病院は「世間では100%血を選んで子供を交換する。早く決断を」とたたみかける──。
究極の選択を迫られた2つの家族
是枝裕和監督が今年のカンヌ国際映画祭で審査員賞を獲得した「そして父になる」。監督は二つの家族を徹底的に対比させる。高学歴、高収入、他人を見下ろす高層マンション。核家族の野々村家はきちんとした身なりで、生活感のない部屋に暮らす。慶多はピアノの練習に励み、父は高級車に乗っている。
一方、3世代6人家族の斎木家は、店の外観はボロボロ。ショーウインドーにはブラウン管テレビが置かれ、地元密着型の小さな電気店だ。移動手段は軽自動車。雄大はルーズでずうずうしく、野々宮家との食事代も取り違えた産院に請求するような男だ。
「ともに時を過ごした他人の子」か、「自分の血を受け継ぐ実子」か。究極の選択を迫られた2つの家族。抽象的なショットが観客の潜在意識に訴えかける。ぐるぐる回る階段はDNAの二重らせんに見える。階段を真上から撮影したショット、どこまでも続く送電線のショット。離れ離れになっても続く家族の絆を表すようで秀逸だ。ドキュメンタリー出身の是枝監督らしい演出である。
「誰も知らない」(04)、「奇跡」(11)と、子供を主役に高評価を受けてきた是枝監督が、実生活で父となり親目線で描いた「そして父になる」。主人公が迷い、いら立ち、葛藤を越える姿を通し、家族とは何かを問いかける。福山雅治は繊細さ、力強さを合わせ持った演技で、初の父親役に取り組んだ。是枝監督にとって集大成といえる作品だ。
「そして父になる」(2013年、日本)
監督:是枝裕和
出演:福山雅治、尾野真千子、真木よう子、リリー・フランキー
2013年9月24~27日、全国先行公開。9月28日、新宿ピカデリーほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。