2013/9/22

映画「また、必ず会おう」と誰もが言った。/恋などなくても、これだけ面白い青春映画が作れるんだ

熊本の高校生、17歳の和也(佐野岳)。東京には一度も行ったことがない。なのに見栄を張り、いっぱしの東京通を気取っていると、同級生に「証拠の写真を見せろ」と迫られる。引くに引けない和也は、親をだまして旅費を工面し、空路東京へ。写真だけ撮ってとんぼ返りするはずだったが、財布をすられたうえ、帰りの飛行機に乗り遅れてしまう。やむなく空港内のロビーで夜を明かそうとするが、売店の女性・昌美(杉田かおる)に声をかけられ、一晩泊めてもらうことに。

ところが、昌美はいわゆる"親切なおばさん"ではなかった。気が利かない和也を叱り、礼儀について説教し、部屋の片付けまで命じる始末。だが、決して意地悪なわけではない。静岡に住む息子へのプレゼントを和也に託し、昌美は言う。「自力で帰ってみたら、一生忘れられない思い出になるよ」。厳しい態度の裏には、昌美の"親心"があった。こうして、和也にとって人生初の一人旅が始まる――。

佐野自身もどんどん主役の顔つきに

道中、和也にはさまざまな出会いが待っている。昌美の元夫で理容師の秋山(塚本晋也)、デコトラ運転手の柳下(イッセー尾形)、魚仲買人の島津(嶋田久作)......。それぞれ必死に生きる大人たちと接する中で、子供っぽかった和也が次第に大人らしい面構えに変わっていく。

画面上も最初は昌美や柳下の影に隠れがちだったのが、だんだん主役らしい存在感を見せていく和也。成長ぶりがストレートに描かれており、素直に感動させられる。

和也に最も大きな影響を与える人物として、ひときわ輝いているのが、イッセー尾形扮する柳下だ。昌美に輪をかけたような説教オヤジ。最初は戸惑う和也だが、率直に明快に人生を語る柳下に徐々に心を開き、それまでの甘えた生き方を改めていく。

若者には最も煙たがられるタイプだが、実は若者を一番愛しているのは、柳下のような大人なのだろう。柳下は別れ際、一つの仕事を和也に託す。それは和也を飛躍的に成長させる大きな試練となる――。

メガホンを取ったのは、青春映画の名手、古厩智之。この種の映画に付きものの恋愛話は封印し、内容を"人生勉強"一本に絞ったところが潔い。恋などなくても、これだけ面白い青春映画が作れるのである。


「また、必ず会おう」と誰もが言った。(2013年、日本)
監督:古厩智之
出演:佐野岳、イッセー尾形、杉田かおる、嶋田久作、塚本晋也、唯野未歩子
2013年9月28日、シネマート新宿、シネマート心斎橋ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

人気キーワードHOT

特集SPECIAL