2013/9/19

映画「ビザンチウム」/吸血鬼少女の切なくて美しい物語 ジョーダン監督の内面描写に懐の深さを感じる

「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」(94)のニール・ジョーダン監督が、20年を経て再び挑んだ吸血鬼映画が「ビザンチウム」だ。前回はトム・クルーズとブラッド・ピットを吸血鬼に仕立てた。今回の主人公は女性。「つぐない」(07)のシアーシャ・ローナン、「アンコール!!」(12)のジェマ・アータートンを美しき吸血鬼にしている。

バンパイア映画はこれまで世界各地で作られてきた。古くはドイツの「吸血鬼ノスフェラトゥ」(22)、米国の「魔人ドラキュラ」(31)。58年に始まったクリストファー・リー主演「ドラキュラ」シリーズ、フランシス・F・コッポラ監督「ドラキュラ」(92)。現在もラブストーリー「トワイライト・サーガ」シリーズなど、ホラーの一ジャンルとして人気を呼んでいる。多くは男が女を襲い生き血を吸うが、「ビザンチウム」は逆。女性が中心の変り種だ。

対照的な2人の女性吸血鬼の生き様

舞台は英国の港町。時代は女性2人が生まれた19世紀と現代。2つの時代をつなぐのが、古びたホテル「ビザンチウム」である。妖艶な美貌を武器に、男の生き血を吸い続ける24歳のクララ(ジェマ・アータートン)。老人や病人の血を吸う16歳のエレノア(シアーシャ・ローナン)。対照的な2人の生きざまが描かれる。

彼女たちは人目を忍んで暮らしている。クララは「ビザンチウム」を相続したノエルを丸め込み、ホテルを売春宿に変えて隠れ家とする。他人との接触を避けるエレノアは、ウエイターのフランクと知り合う。自転車事故で流れ出たフランクの血を見て、吸血鬼の血が騒ぎ出す──。

アイルランド出身のニール・ジョーダン監督は、恋愛映画の「モナリザ」(86)、「クライング・ゲーム」(92)、歴史映画「マイケル・コリンズ」(96)のほか、グリム童話「赤ずきん」をモチーフにした狼男映画「狼の血族」(84)、吸血鬼映画「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」(94)などのホラー作品も撮ってきた。

最近はおとなしい作品が続いていたが、今回はホラー作家としての力量を見せる。英国らしい雰囲気で進む現代劇で、やや下世話な展開と鮮烈なスプラッター描写に面食らう。しかし、2人の生い立ちの描き方は19世紀のゴシックホラー調で、様式美が印象的だ。吸血鬼映画らしく陰鬱な空気が漂う中、自身の血に悩み苦しみながら、折り合いをつけるエレノア。内面描写に監督の懐の深さを感じた。


「ビザンチウム」(2012年、英・アイルランド)
監督:ニール・ジョーダン
出演:ジェマ・アータートン、シアーシャ・ローナン、 サム・ライリー、ジョニー・リー・ミラー、ダニエル・メイズ
2013年9月20日、TOHOシネマズ六本木ヒルズほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

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