2013/9/14

映画「ストラッター」/映像もサウンドも超一級! ロック魂と映画愛がひとつになった最高にクールなムービー

ガールフレンドにふられた。追い打ちをかけるように、バンドのメンバーに脱退を告げられた。恋とバンド活動。駆け出しロックンローラーのブレットにとっては、人生のすべてだったが、立て続けに失ってしまった。

不幸のどん底に突き落とされたブレット。とりあえず、ガールフレンドを奪ったデイモンに殴り込みをかけようとするが、相手は憧れのミュージシャン。何も言えず、すごすごと引き返すしかなかった。

ガールフレンドはあきらめた。観念したブレットは、手近な女友だちとデートする。しかし、お互い緊張のあまり泥酔。新しい恋へと発展することはなかった。

要領が悪い。気が弱い。人がいい。ダメな男。だが、憎めない。家族や友人たちは、そんなブレットをほっておけない。恋敵のデイモンもブレットが気に入ったようだ。2人の間にはいつのまにか友情が芽生えていった。

ブレットはしだいに立ち直っていく。そしてある日、母親の恋人であるミュージシャンのフランクに誘われ、デイモンとともに、伝説のロックンローラー、グラム・パーソンズを詣でる旅に出るのだった――。

演じる人も監督だってみんな本物のミュージシャン

製作費2万5000ドルの低予算映画。しかし映像もサウンドもクオリティは超一級だ。ストリップショーでバンドが演奏するシーンをはじめ、敏捷なカメラワークと的確なカット割に、並外れたセンスが光る。監督は「ガス・フード・ロジング」(92)のアリソン・アンダースと、長年にわたり彼女とコンビを組んできたカート・ヴォス。数々のすぐれたロック映画を生み出してきたコンビが、今回も遺憾なくその実力を発揮している。

特筆すべきはブレッドをはじめ、デイモンも、フランクも、演じているのはすべて本物のミュージシャンだということ。劇中の曲も演奏も彼らのオリジナルである。監督のカート・ヴォスもミュージシャン。LA(ロサンゼルス)のロックシーンを代表する大物ミュージシャンが何人も登場するが、これもヴォス監督らの人脈だ。

全8章で構成される作品。こんなエピソードがある。女友だちが働くクラシック専門の上映館で、サイレント映画を見ていたブレットが、おもむろに席を立つとオルガンで伴奏し始めるのだ。ミュージシャンの面目躍如である。しかも、この時映されるのが、"アメリカの恋人"と呼ばれた往年の大女優メアリー・ピックフォードの弟、ジャックの出演作なのだ。どうやらこのへんはアンダース監督の趣味らしい。

というわけで、コアなロックファンの心をわしづかみにすると同時に、映画マニアにも強くアピールする作品になっている。ロック魂と映画愛が一つに溶け合った作品とでもいおうか。

劇中に登場するレコードショップ、サイレント映画、8ミリカメラ、そしてモノクロ映像。アナログ文化への傾倒も大きな特徴だ。章立ての構成は、LPレコード時代のコンセプト・アルバムを彷彿させる。A面の日常スケッチからB面のロードムービーへ。エンディング・ナンバーも完璧にキマっている。


「ストラッター」(2012年、米国)
監督:アリソン・アンダース、カート・ヴォス
出演:フラナリー・ランスフォード、ダンテ・ホワイト=アリアーノ、エリーズ・ホランダー、クレイグ・スターク
2013年9月14日、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

人気キーワードHOT

特集SPECIAL