2013/9/13

映画「Miss ZOMBIE」/SABU監督、久々の個性発揮 下僕になったゾンビに向けられる「人間の増悪とエゴ」

「弾丸ランナー」(96)で監督デビューした俳優のSABU。「ポストマン・ブルース」(97)、「MONDAY」(99)など疾走感あふれる独創的作品を発表する一方、松山ケンイチと芦田愛菜を主演の前作「うさぎドロップ」(11)が興行収入6億円を稼ぎ、商業映画監督として成功を収めた。「Miss ZOMBIE」は、「幸福の鐘」(02)以来の原案、脚本、監督を手がけた完全オリジナル作品だ。

「Miss ZOMBIE」は監督にとって初めて女性が主人公。言葉を話さない女ゾンビという異例の設定だ。主人公の沙羅には、テレビドラマ「美少女戦士セーラームーン」(03)でデビュー後、ドラマやグラビアアイドルとして活躍する小松彩夏。初の主演作となる。

欲情する使用人、面白半分に刺す若者

人間とゾンビが共存する世界が舞台で、背景説明はない。一度死んだ人間がよみがえり、人肉を求めて人を襲う。かまれた人間はゾンビになる。ジョージ・A・ロメロが監督した「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」(68)、「ゾンビ」(78)で用いたルールを受け継ぎながら、人を襲うゾンビと襲わないゾンビに分ける。独自の解釈といえる。

ある日、寺本家に大きな箱が送られてくる。家長の寺本(手塚とおる)の指示で使用人がこじ開けると、中から「肉を与えるな」という説明書と銃、おりに閉じ込められた若い女ゾンビの沙羅(小松彩夏)が出てきた。生気のない目と全身の傷跡。失われた記憶と感情。沙羅は人間を襲わないゾンビだった。その日から沙羅は家の下僕として働くことになる。

沙羅の存在により、周りの人々は変わっていく。長男・健一は沙羅を撮影する。男使用人は沙羅に欲情する。近所の子供たちは沙羅に罵声を浴びせ、石を投げる。若者グループは面白半分にナイフで刺す。ゾンビという異形の存在に人間の憎悪とエゴがむき出しとなる。観客の心に突き刺さる描写だ。一方、健一の事故死で半狂乱になった母・志津子(富樫真)は、沙羅に「健一にかみついてよみがえらせて」と懇願する──。

光と影が際立つモノクロ画面。映し出されるのは、女ゾンビの登場で崩壊する家族の姿だ。ここ数年、個性を消してきたSABU監督だが、今回は極端に台詞を減らし、絵だけで物語を見せ切る。淡々と動きの少ない作品だが、あるきっかけで場面は静から動へ変動。SABU監督得意の"走る"描写が現れる。

インディーズ映画を思わせる雰囲気に戸惑いを感じるが、ふつふつと煮え立つ情念が沸点に達する瞬間、白黒画面に色が付く。監督が本来のスタンスを取り戻す感覚を、徐々に人間味をおびる沙羅に投影したような作品だ。


「Miss ZOMBIE」(2013年、日本)
監督:SABU
出演:小松彩夏、冨樫真、手塚とおる、大西利空、駿河太郎
2013年9月14日、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

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