化粧や女装に好奇の目を向ける他人
性別は社会が個人を認識する基本要素の一つだ。生物学的な性を受け入れないロランス。「男にならなければならなかった」と言う監督。視線が向く先は、性差だけではない。ロランスを産みながら、受け入れない母親。化粧や女装に好奇の目を向ける他人。傷つけられながらも、人は他者とかかわらずにはいられない。監督は言う。
「僕が映画界に入ったきっかけは、忘れられる恐怖だった。監督というものは自分を忘れられたくなくて、個人の記憶を集団の記憶に売り渡す。そのために実人生を投げ売っても」
そんな監督を、ロランス役で一回り以上年上のプポーは「とてもチャーミングでエネルギッシュ」と一歩離れてみる。「いつもどこか生き急いでいて、『時間がない』と焦っている。『まだ若いんだから時間はたっぷりあるよ』というと、『そんなことはない』ってね(笑)。常にアイデアが沸き上がるような、才気にあふれている」
怒涛の長編を撮り切った根源は、ただ若さだけなのか。「生き急ぐ恐るべき才能」のエネルギーを、全身に浴びる作品だ。
「わたしはロランス」(2012年、カナダ・フランス)
監督:グザビエ・ドラン
出演:メルビル・プポー、スザンヌ・クレマン、ナタリー・バイ
2013年9月7日、新宿シネマカリテほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。