2013/8/30

映画「ジンジャーの朝 さよなら、わたしが愛した世界」/ヒロインの迫真の演技が心を打つ青春映画の秀作

キューバ危機、家庭崩壊、友情の亀裂。17歳の少女、ジンジャー(エル・ファニング)を次々と過酷な試練が襲う。傷つき、悩み、押しつぶされそうになりながらも、ジンジャーはじっと耐え、やがて希望の光を見出していく――。 

1960年代初頭の英ロンドンを舞台に、知的で繊細な少女の"心の旅"を描いた「ジンジャーの朝 さよなら、わたしが愛した世界」。ヒロインに扮したファニングの迫真の演技が心を打つ、青春映画の秀作だ。

尊敬する父が親友に手を出してしまったら...

ジンジャーには、ローザ(アリス・イングラート)という親友がいる。恋愛、煙草、アルコールといった遊びばかりでなく、反核集会にも一緒に参加するなど、2人は常にペアで行動してきた。しかし、蜜月関係は徐々に崩れ始める。

幼い頃には見分けられなかった2人の個性が、他人が介在することで顕在化していくのだ。たとえばローザが行きずりの若い男と、いとも簡単にキスしてしまうシーン。ジンジャーは見て見ぬふりをしながら、ただ時の過ぎるのを待つしかない。社交的で奔放なローザと、不器用で内気な自分。ヘアスタイルもファッションも同じ。だが実はまるで正反対であることを、ジンジャーは思い知らされる。

皮肉なことに、2人の仲を決定的に引き裂くのは、ジンジャーの父親、ローランド(アレッサンドロ・ニヴォラ)だ。彼は第二次世界大戦で兵役を拒否し、投獄された過去を持つ思想家である。妻との関係は破たんしており、別居生活を送っているが、彼の平和思想はジンジャーとローザに大きな影響を与えている。その尊敬すべき父親が、よりによって親友のローザに手を出してしまうのである。

リベラルな思想の延長としての自由恋愛といったところだろうが、インテリの欺瞞が露呈している。この時もジンジャーは、頬に一筋の涙を垂らしながら、ひたすら時の過ぎるのを待つのである。噴出する感情を必死に押しとどめるファニングの表情がたまらなく美しい。

過酷な現実に打ちのめされながら、いかに試練を克服していくのか――。ジンジャーが見た世界、心に生じた感情。すべてがジンジャーの視点で描かれている。男女を問わず、見る者はジンジャーに感情移入し、彼女の物語を追体験するだろう。そして、"あの頃"に感じた心の痛み、苦しみを思い出すだろう。


「ジンジャーの朝 さよなら、わたしが愛した世界」(2012年、英・デンマーク・カナダ・クロアチア)
監督:サリー・ポッター
出演:エル・ファニング、アリス・イングラート、クリスティーナ・ヘンドリックス、アネット・ベニング、アレッサンドロ・ニヴォラ
2013年8月31日、シアター・イメージフォーラムほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

人気キーワードHOT

特集SPECIAL