2013/7/31

映画「トゥ・ザ・ワンダー」/「ツリー・オブ・ライフ」のマリックらしさ炸裂 映像と音楽だけで感性に訴える唯一無二の作風

"伝説の映画監督"テレンス・マリック。「地獄の逃避行」(73)でデビューし、2作目「天国の門」(78)でカンヌ国際映画祭監督賞を受賞する。その後20年間沈黙し、「シン・レッド・ライン」(98)で復活。ベルリン国際映画祭金熊賞(最高賞)を獲得する。「ニュー・ワールド」(05)を経て、「ツリー・オブ・ライフ」(11)でカンヌ国際映画祭パルムドール(最高賞)。寡作だが作品は高く評価されている。

前作「ツリー・オブ・ライフ」は、家族のドラマに地球の起源を挿入。スケールは壮大だが、内容は難解を極めた。その後わずか1年で完成した「トゥ・ザ・ワンダー」は、前作と違う意味で難しい作品に仕上がった。

物語はシンプルだが、説明描写は排除され、台詞もほとんどない

フランスで恋に落ちた二―ル(ベン・アフレック)とマリーナ(オルガ・キュリレンコ)。カメラはスナップ映像のように蜜月を映し出す。2人はマリーナの連れ子タチアナと米オクラハマに移住。二―ルは幼なじみのジェーン(レイチェル・マクアダムス)と再会し、マリーナとの関係に亀裂が入る。そこに欧州から来た神父クインターナ(ハビエル・バルデム)が絡んでくる。

物語はシンプルだが、説明描写は排除され、台詞もほとんどない。映像と音楽だけが流れる特殊な作品だ。登場人物の心の声をモノローグとして使い、心情を観客に伝えていく。

台詞のないシーンで、人物が自問自答を繰り返す。ヴィム・ヴェンダース監督「ベルリン 天使の詩」(87)を思い出す手法だ。主人公の天使が街のあちこちにたたずみ、街に暮らす人々の心の声に耳を傾ける。心の声は天使だけに聞こえている。同じ方法と考えると、「トゥ・ザ・ワンダー」は非常に分かりやすいともいえる。

観客は神として、傍観者として、登場人物の心の声に耳を傾ける。男の前に幼なじみが現れ、彼らの心は揺れる。神父は心の中で言う。「私は神の姿を見たことがない。信者の悩みを聞いても、分かったふりをしているだけだ」。信仰への疑問。葛藤を続ける孤独な人々。カメラは彼らをひたすら追い続ける。

フランスの修道院モン・サン=ミシェルで幕を開け、舞台は対照的な空気のオクラハマへ。マリック作品独特の、自然光のみでとらえた大自然。原風景に生きる男女は、太古から繰り返される生命のサイクルを描いた「ツリー・オブ・ライフ」に通じる。無駄な描写を排し、映像と音楽だけで感性に訴える唯一無二の作風。マリックの映像作家としての自信を感じた。


「トゥ・ザ・ワンダー」(2012年、米国)
監督・脚本:テレンス・マリック
出演:ベン・アフレック、オルガ・キュリレンコ、レイチェル・マクアダムス、ハビエル・バルデム
2013年8月9日、TOHOシネマズシャンテ、新宿武蔵野館ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

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