2013/7/20

映画「クロワッサンで朝食を」/女優、ジャンヌ・モローの貫禄に圧倒!こんな芝居は彼女以外にできない

エストニアの田舎町からパリへ、中年女性のアンヌ(ライネ・マギ)がやってくる。一人暮らしの老婦人が家政婦を探しており、同郷でフランス語を話せるアンヌに白羽の矢が立ったのだ。夫を亡くし、子供も独立していたアンヌに断る理由はない。初めてのパリ。憧れの都。心が弾む。だがアンヌを待ち受けていたのは、とてつもなく高慢で気難しい女性だった――。

体を触り、股間に手を伸ばし、たった一言「思い出よ」

彼女の名はフリーダ(ジャンヌ・モロー)。故郷を離れたのは、はるか昔なのだろう。いかにもパリジェンヌらしい洗練されたたたずまいの女性だ。そんなフリーダがアンヌに意地悪な態度をとるのには、理由があった。なぜか。物語が進むにつれ明らかとなる。最初は距離のある2人が、徐々に心を通い合わせていく。フリーダに教えられ、感化され、アンヌはだんだんと都会の雰囲気になじんでいく。

パリに着いたばかりのアンヌは、なにしろ垢抜けない。フリーダの朝食は"クロワッサンと紅茶"と教えられると、スーパーで袋入りのクロワッサンを買ってきて一蹴される。裕福なパリジェンヌがそんなものを口にするわけがない。そんなセンスすら欠けていたアンヌが、しだいに磨かれていく。

2人の女性の間に立って重要な役割を果たしているのが、仲介者のステファン(パトリック・ピノー)だ。アンヌと同年輩のステファンは、かつてフリーダの愛人で、交友は続いている。フリーダは今もステファンを愛しているようだ。そして自分よりはるかに若く美しいアンヌに嫉妬心を燃やしている。

アンヌに扮するのは、エストニア出身の女優ライネ・マギ。ニュアンスに富んだ繊細な演技は絶品だ。今回が映画初出演とは思えない、堂々たる存在感である。

フリーダ役のジャンヌ・モローの素晴らしさは言うまでもない。思いのままに生きているようだが、実は深い孤独を抱えた老婦人。モロー自身かと思うほどリアルである。

フリーダがステファンを横に寝かせて、体を触り、股間に手を伸ばすシーン。不意打ちにステファンがたじろぐ。すると彼女はただ一言「思い出よ」。こんな芝居をモロー以外に誰ができるだろう。どんなに年老いても女であることをやめないフランス女性の凄み、誇り。女優、ジャンヌ・モローの貫禄に圧倒される。


「クロワッサンで朝食を」(2012年、仏・エストニア・ベルギー)
監督:イルマル・ラーグ
出演:ジャンヌ・モロー、ライネ・マギ、パトリック・ピノー
2013年7月20日、シネスイッチ銀座ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

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