2013/6/28

映画「欲望のバージニア」/"世界の密造酒首都"で生きるくせ者たちの復讐劇

1931年、米国。禁酒法の時代。同時代を描いた映画には、マフィアの親分アル・カポネと財務省捜査官エリオット・ネスが死闘を繰り広げる「アンタッチャブル」(87)や、ギャング映画の古典「暗黒街の顔役」(32)、マリリン・モンロー主演のコメディー「お熱いのがお好き」(59)などがある。いずれもシカゴが舞台だ。また、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」(84)、「コットンクラブ」(84)など、ニューヨークを舞台にした作品も多い。

だからだろうか、禁酒法というと大都市のイメージがあり、今回舞台となっているバージニア州フランクリンという地名にピンとこなかった。ところが調べてみると、当時密造酒ビジネスが大いに栄え、"世界の密造酒首都"と呼ばれたほどの土地だという。

悪役、ガイ・ピアースの冷血ぶりは見事!残酷な仕打ちは身震いするほど

作品に登場するボンデュラント兄弟は、フランクリンで名を馳せた実在の人物だ。長男ハワードは、第一次世界大戦で戦友が命を落とす中、一人だけ生き延びた。次男フォレストは、両親が伝染病に倒れたが自分は助かった。そのせいで2人とも「自分たちは不死身だ」と信じている。末っ子のジャックは兄たちのようにタフではなく、気も小さいが野心がある。

兄弟3人は、酒の密造と販売で生計を立てている。違法ではあるが、立派な"地場産業"。彼らは主要な担い手なのである。町の繁栄と平和は、兄弟とともにあった。

だが、平穏をかき乱す男が現れる。新任の取締官レイクス。密造を黙認する代わりに法外な賄賂を要求。従わなければ容赦なく制裁を下す。冷酷で残忍な男だ。同業者たちは泣く泣くレイクスに服従するが、兄弟は違った。

正面切って抵抗したのが、次男のフォレストだ。兄弟の中で最も男気にあふれ、腕っぷしも強いリーダー的存在。理不尽な圧力には決して屈しない。しかし、それがレイクスの神経を逆なでし、陰湿かつ卑劣な仕打ちを受けることになる――。

ジャックのように弱い者は自らの手で、手ごわいフォレストには刺客を使い、次々と攻撃を加えていくレイクス。致命傷を負いながらも、奇跡的に一命を取り留め、反撃に出るフォレスト。2人を中心に繰り広げられるバイオレンスの応酬が、最大の見どころだ。兄弟総がかりでレイクス一味に決戦を挑むクライマックスの銃撃戦は圧巻である。

物語のヒーローが、トム・ハーディ演じるフォレストであることは言うまでもない。荒っぽさはあるが、心根は優しいナイスガイ。誰もがフォレストの無事と勝利を祈りながら見るに違いない。

しかし、ヒーローがヒーローたり得るのは、悪役が際立ってこそ。悪役が憎ければ憎いほど、ヒーローは光り輝く。レイクスに扮したガイ・ピアースの冷血ぶりは、「シェーン」(53)におけるジャック・パランスさながら。外見からして冷血動物である。ジャックの親友で足の不自由なクリケットに対する残酷な仕打ちはあまりにおぞましく、思わず身震いするほどだ。これほど憎々しい悪役は久しぶりに見た気がする。ガイ・ピアース、見事である。


「欲望のバージニア」(2012年、米国)
監督:ジョン・ヒルコート
出演:シャイア・ラブーフ、トム・ハーディ、ガイ・ピアース、ゲイリー・オールドマン、ジェイソン・クラーク、ミア・ワシコウスカ、ジェシカ・チャステイン
2013年6月29日、丸の内TOEIほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

人気キーワードHOT

特集SPECIAL

ランキング RANKING