2013/5/24

映画「俺俺」/俺が俺を削除する―。三木聡ワールド全開の不条理サスペンス

郊外の街で平凡に暮らす永野均(亀梨和也)、28歳。成り行きでオレオレ詐欺に加担したところ、同じ顔をした"別の俺"が現れ始める。増殖した俺が集まる部屋は"俺山"と名付けられ、対立の末に俺同士の"削除"が始まる──。

亀梨和也1人33役に挑む

ドラマ「時効警察」(06)、映画「インスタント沼」(09)など個性的な作品を発表する三木聡がメガホンを取り、亀梨和也が1人33役を演じる。入り口こそ現実的なオレオレ詐欺だが、内容は不条理なカオスに包まれている。1970年前後の筒井康隆の小説、オムニバスドラマ「世にも奇妙な物語」に通じる空気だ。

均と同じ考え、趣味を持った人間がアパートに集まり、サル山ならぬ"俺山"を築き、同じ時間を共有する。最初こそ居心地がいいが、俺はコピーにコピーを重ねて劣化。"許せる俺、許せない俺"に分別される。やがて俺山の居心地は悪くなり、殺人事件が発生。俺同士の削除に発展する。

シュールで緩い笑いが得意な三木監督だが、過去の作品とは趣が違う。俺が増殖する不条理な世界で、現代社会のゆがみ、人間関係に対する危機感がサスペンスフルに描かれる。

均が他人の携帯電話を盗むファストフード店、勤務先の家電量販店。店舗はどこも似たり寄ったりで、日本にはびこる消費文化を象徴する。従業員はマニュアル接客を叩き込まれ、個性を消して店の顔を演じる。舞台の街には似たような住宅、団地が並ぶ。無個性に慣れた日本人に、監督は異論を唱えているかのようだ。

人と人のつながりは薄くなり、簡単に他人になりすませる恐怖。33役をこなした亀梨をはじめ、加瀬亮、内田有紀ら個性豊かな俳優のアンサンブル。小道具や背景などのディテールまで、三木ワールドが濃縮された作品だ。


「俺俺」(2012年、日本)
監督:三木聡
出演:亀梨和也、内田有紀、加瀬亮、キムラ緑子、高橋惠子
2013年5月25日、新宿ピカデリーほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

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