2013/5/17

映画「ビル・カニンガム&ニューヨーク」/セレブから愛される「謎に満ちた名カメラマン」の素顔

米ニューヨークの街を自転車で走り回り、"これぞ"と思ったファッションに遭遇するや、すかさずシャッターを切る。雨の日も、風の日も、休まず、毎日毎日。写真はニューヨーク・タイムズ紙の名物コラム「ON THE STREET」に掲載され、ファッション関係者をはじめ、多くの人々に多大な影響を与えている。

ニューヨークを拠点に活躍するファッション・カメラマン、ビル・カニンガム。路上を歩く人々のファッションを撮影する"ストリート・スナップ"の開拓者にして、第一人者だ。だが高い知名度にもかかわらず、彼の人生は謎に包まれ、親しい友人ですら私生活を知る者はほとんどいないという。

そんな"知られざる名カメラマン"の実像に光を当てた、貴重なドキュメンタリー。嫌がるカニンガムを8年がかりで説得し、撮影と編集に2年。トータル10年を費やして完成させた力作だ。

フランス文化省から勲章を受けたときも作業着姿

ニューヨークの街、ファッション・ショー、パーティー会場、住まいであるカーネギーホールの上のスタジオアパート。どこに行こうと、カニンガムが着るのは、ブルーの作業着だけだ。雨の日にはおるポンチョは、破れたらテープで修繕し、使い続ける。

狭いアパートには、フィルムを保管するキャビネットと簡易ベッドのみ。トイレもシャワーも共同だ。キッチンすらない。簡素をきわめたストイックな生活。カニンガムにとって写真を撮ること以外に、重要なことはないのだ。

被写体に有名無名は問わない。カトリーヌ・ドヌーブにメディアが群がろうとも、ファッションに見るべきものがなければ、黙殺する。顔見知りのモデルも、つねに撮影するわけではない。撮るかどうかはファッションしだいなのだ。

フランス文化省から勲章を受けた時も、いつものブルーの作業着。パーティー会場では主賓という立場など忘れ、着飾った出席者たちにカメラを向ける。もはや求道者である。

映画はそんなカニンガムの人生を、映像とインタビュー、親しい業界人の証言によって、浮き彫りにしていく。さらには信仰、恋愛といった心の領域にまで踏み込む。

すべてはファッション写真のために――。究極のプロフェッショナルの姿がここにある。


「ビル・カニンガム&ニューヨーク」(2010年、米国)
監督:リチャード・プレス
出演:ビル・カニンガム、アナ・ウィンター、カルメン・デロリフィチェ、トム・ウルフス
2013年5月18日、新宿バルト9ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

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