米ニューヨーク、ブロンクス。高校前を通る路線バスは、"悪ガキたち"を満載して動き出す。明日から夏休み。後は家に帰るだけだ。車内はハチの巣を突いたような大騒ぎ。小学生を立たせて席にふんぞり返ったり、お祖母さんにセクハラまがいのいたずらをしたり、やりたい放題だ。そんなやんちゃな彼らだが、一人また一人バスを降り、夕暮れが近付くと、車内の空気が変わっていく──。
面倒も多いけれど、進むしかないんだよ、このバスみたいにね
ミシェル・ゴンドリー監督の「ウィ・アンド・アイ」。ニューヨークの通学バスを舞台に、素人の高校生を起用。軽やかな会話と音楽でつづる群像劇。
映画が始まるなり、観客はなんだかちょっと怖いバスに押し込まれた気分になる。他人の迷惑もお構いなく、大騒ぎする高校生。男子はみんなこわもてで、女子ははすっぱに見える。いやだなあ、からまれたら。車内の片隅で息をひそめ、彼らの話をこっそり聞く気分。
誰と誰がくっついた、次のパーティーに誰を呼ぶか。浮気の暴露からゲイカップルの痴話げんか。延々と続くなんということはない会話。しかし不思議なもの。ふと気付くと身を乗り出して聞いている自分がいる。透明人間になった気分でつり革にぶら下がり、「そうだよねえ」「いやいや違うでしょ」なんて、合いの手を入れている自分。
バスが破裂しそうな興奮にさらされ、怒涛の言葉の応酬を聞いていると、彼らがさりげなく相手の立場を察し、気遣っていることに気付く。家族や学校や友人や恋人。毎日面倒も悩みも多いけれど、進むしかないんだよ、このバスみたいにね。
日が傾き、薄闇が車内に満ちてくる。さあ、私も降りる番だ。ありがとう。たっぷりエネルギーをもらったよ。
「ウィ・アンド・アイ」(2012年、米国)
監督:ミシェル・ゴンドリー
出演:マイケル・ブロディ、テレサ・リン、レイディーチェン・カラスコ、レイモンド・デルガド、ジョナサン・オルティス
2013年4月27日、シアター・イメージ・フォーラム、シネ・リーブル梅田ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。