2013/3/31

映画「グッバイ・ファーストラブ」/"愛さなかったことなんか1秒もないわ" 男と女、恋の不条理

高校生のカミーユとシュリヴァンは恋人同士。相思相愛ではあるが、少しばかり温度差がある。熱を上げているのは15歳のカミーユのほうだ。2 つ年上のシュリヴァンに夢中で、いつも彼のそばにいないと不安でならない。シュリヴァンは、そんなカミーユをちょっと持て余している。

カミーユにとってシュリヴァンは人生のすべて。だが、シュリヴァンにとってカミーユは生活の一部に過ぎないのだ。会えばセックスしたいと思うカミーユ。たまには一人で読書もしたいシュリヴァン。気持ちのすれ違いは、しばしば二人の間に気まずい空気を生み出している。

夏のバカンスを二人で過ごした後、シュリヴァンは高校を中退し、南米へと自分探しの旅に出てしまう。一人パリに取り残されたカミーユ。旅先から届く手紙だけを支えに生きていた。しかし、突然、手紙は中断。やがて届いたのは、一方的に別れを宣告する手紙だった――。

泣き濡れて、自殺未遂までしたカミーユだったが、何とか立ち直ると、航空会社やクラブの仕事を経て、大学に進学。かねて興味を持っていた建築の勉強にまい進し、才能を磨いていく。同時に目をかけてくれた指導教授と、夏の研修旅行をきっかけに男女関係を結ぶ。

 

髪を短くカットし、つき物が落ちたように、新しい環境に順応していくカミーユ。変身ぶりが実に鮮やかだ。初恋の少年に身も心も捧げ尽くした少女も、今や妻子持ちの中年男と恋愛を楽しむ大人の女。大学卒業後は教授の建築事務所に入り、公私ともに充実した人生を送っている。シュリヴァンのことなど、とうの昔に忘れているように見える。

ところが、ひと筋縄ではいかないのが女心だ。シュリヴァンが帰国したことを知るや、たちまちカミーユは彼との関係を復活させるのである。「あなたを愛さなかったことなんか1秒もないわ」。さらりと言ってのけるカミーユ。別の男がいることを知りつつも、シュリヴァンは彼女の愛を受け入れる。一度終わらせた恋を再開させてしまうのである。女心も謎だが、男心も不可解。ミア・ハンセン=ラブ監督は、恋愛心理の不条理を、自身の体験をもとにリアルに描き出している。

ラストシーンで見られる"視点の転換"は圧巻だ。カミーユ個人の恋愛をめぐるストーリーが、一気に神話の高みへ移行する。映画的としか言いようのない至高の瞬間である。


「グッバイ・ファーストラブ」(2011年、フランス)
監督:ミア・ハンセン=ラブ
出演:ローラ・クレトン、セバスティアン・ウルゼンドフスキー、マーニュ・ハーバード・ブレック
2013年3月30日、渋谷シアターイメージフォーラムほかで「スカイラブ」、「ベルヴィル・トーキョー」と3作同時に、全国順次公開。作品の詳細は公式サイトで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

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