通常のデリヘル店に勤務していた沙織が、障がい者専門の店にくら替えした理由は単純だった。「楽そう。お客さんは動けないから怖くないし...」。ところが、いざ仕事を始めてみると、沙織が考えていたような"お気楽"な職場ではなかった――。
ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2013で、オフシアター部門のグランプリとシネガー・アワード(記者賞)に輝いた「暗闇から手をのばせ」。テレビのドキュメンタリー番組などを手がけてきた戸田幸宏監督が、実在する派遣型風俗店への取材をもとに、フィクションとして撮った意欲作だ。
だだっ子のように本番行為をねだる常連客
"障がい者相手の風俗サービス"というと、キワモノ的興味をかきたてられるかもしれない。しかし、内容はいたってまっとう。障がい者を取り巻く環境や、健常者の差別心に心を痛めながら、風俗嬢が人間的成長を遂げていくプロセスを描いている。
出勤初日に沙織が相手をしたのは、全身にタトゥーを彫り込んだ金髪の青年。進行性筋ジストロフィー患者だった。常に死を意識しながら生きている青年を前に、沙織の甘い気持ちは一気に吹き飛ぶ。一方、両手両足に障害を持ちながら、いつも明るく振る舞う常連客は、だだっ子のように本番行為をねだっては、沙織の気分を和ませた。
交通事故で脊髄を損傷し、車椅子生活を送る若者は、沙織のサービスを拒否する。性的刺激を受ければ男性機能が回復するだろうと、母親が勝手に沙織の店に電話したのだった。沙織は黙って立ち去るしかなかった。
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