2013/3/11

映画「愛、アムール」/「素晴らしい」「何が?」「人生よ。かくも長い、長き人生──」

仏パリの高級アパート。ジョルジュ(ジャン=ルイ・トランティニャン)と妻のアンヌ(エマニュエル・リバ)は、静かで満ち足りた老後を迎えていた。しかしある日、アンヌに異変が起きる。治療を受けるものの、日ごと衰え行く体。「二度と病院へ行かせないで」。ジョルジュは妻の願いを聞き入れ、最後の日々を自宅で過ごす決意をする──。

ハネケが描く人生最後の日々 幕引きは静かに強く、美しく

2012年カンヌ国際映画祭パルムドール(最高賞)の「愛、アムール」。ミヒャエル・ハネケ監督は「白いリボン」(09)に続き2作品連続受賞の栄誉に輝き、今年の米アカデミー賞では外国語映画賞も獲得した。これまで「ファニーゲーム」(1997)など、人間の疑惑、狂気、暴力を描いてきたハネケが、ひそやかに語る老いと愛の物語だ。

自宅に戻ったアンヌは徐々に衰える。見守るジョルジュの負担は重くなる。誰もが経験するであろう、老いと死の恐怖。それは静かに、しかし残酷に訪れる。動かなくなっていく手足。失われ行く若き日の面影。監督の視線は容赦がなく、感情に流されることもない。過剰な音楽や安っぽい台詞は排され、二人だけになった世界に観客は釘付けにされる。

やがてジョルジュはある決断を下し、2人の世界は終わる。主をなくした部屋。しかし、観る者の胸に押し寄せるのは、ある種の達成感だ。自らの意志で選択し、戦いを終えた2人への尊敬と祝福。老いがどれほど強く、美しいものか。主演俳優2人が身をもって示してくれる。

リバ85歳、トランティニャン81歳、ハネケ70歳。リバは言う。「ハネケの作品には感傷がない。観る者に強さを与える。自己陶酔は一切なく、人間の本質を見せる」。トランティニャンは言う。「彼は俳優が感情を出すのを望まない。私は100本以上の映画に出てきたが、人から観られることに満足できる最初の作品だ」。監督は言う。「社会派映画を作ることに興味はない。人の感性を刺激するものを作りたい。芸術的な方法で冷静に語る。感情的になりすぎたら、優れた作り手にはなれない」

先達3人が語る、かくも長く、素晴らしき人生。


「愛、アムール」(2012年、仏・独・オーストリア)
監督:ミヒャエル・ハネケ
出演:ジャン=ルイ・トランティニャン、エマニュエル・リバ、イザベル・ユペール、アレクサンドル・タロー、ウィリアム・シメル
2013年3月9日、Bunkamura ル・シネマ、銀座テアトルシネマ、新宿武蔵野館ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

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