2013/3/ 1

映画「フライト」/世紀の英雄か背徳の偽善者か デンゼル・ワシントン揺れる男を熱演

ジャンボ機の機長・ウィトカー(デンゼル・ワシントン)の朝。寝起きに酒を飲み、気つけにコカインを吸引。勤務に向かった。機内でも酒を飲んだウィトカーは、副操縦士に操縦を任せて居眠りを始めた。そこへ突然激しい衝撃が襲い、機体が制御不能に。ウィトカーはとっさの判断で背面飛行を続け、目の前の草原に不時着する。

病院で目覚めたウィトカーは、乗客の大半が助かったと知る。奇跡の生還をマスコミは称え、ウィトカーは一躍ヒーローに。しかし、酒を飲んだ後ろめたさで逃げるように姿を隠す。そこに弁護士が現れ「あなたの血液からアルコールが検出された」と告げる──。

非常に大胆な構成 「刑事コロンボ」を彷彿

非常に大胆な構成だ。冒頭でウィトカーの非常識な行動を見せ、ヒーローに祭り上げられた男がどう自分の行いを隠し、世間に対応するかをじっくり追っていく。犯人の手口を冒頭に見せ、刑事が推理して追い詰めるドラマ「刑事コロンボ」を彷彿させる。

しかし「フライト」に敏腕刑事は登場しない。事故の重さに揺れるウィトカーの心情がひたすら描かれる。彼の悪行を知るのは観客、前夜情事を共にした女性、副操縦士、ベテラン客室乗務員だけ。ウィトカーはうそをつき通し、英雄として余生を過ごすのか。それとも真実を告白するのか。

「ホワット・ライズ・ビニース」(00)以来、12年ぶりの実写作品となったロバート・ゼメキス監督。冒頭で得意のVFX(特殊効果)を使って墜落シーンをリアルに表現。中盤から自責と保身に揺れる主人公の内面を丁寧に描いていく。離婚した妻子との険悪な関係。アルコールの禁断症状で表れる幻想的な映像。事故原因の調査会直前、再びアル中になったウィトカーの前に現れる薬物密売人(ジョン・グッドマン)の存在。一筋縄ではいかない演出は、ゼメキス監督らしくシニカルだ。善悪の間を揺れ動くワシントンの演技も圧倒的で、見ごたえ十分に仕上がった。


「フライト」(2012年、米国)
監督:ロバート・ゼメキス
出演:デンゼル・ワシントン、ドン・チードル、ケリー・ライリー、ジョン・グッドマン、ブルース・グリーンウッド
2013年3月1日、丸の内ピカデリーほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

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