渋谷の23時。この都会のど真ん中でも金木犀の香りが町を包みこむ。仕事終わりに、足早に駅に向かうなか、バイトの男の子がつぶやいた。
「僕、焦ってるんです」
彼は今年、地方から上京してきたばかりで、まだ18歳の大学1年生だ。羨ましくなるほど透き通るような白磁のような肌に、大きなアーモンド形の茶色い瞳が印象的で、最近の若い子の特徴なのか、ちょっとあひる口。彼は眺めているのがちょうどいい。ガツガツ系の私でも、こんなふうに男の子を見るようになったんだと、世代のギャップを感じる。さて、その澄んだ瞳をした少年から大人へと変わる時期の彼が、焦っているという。
理由は放送作家を目指し、コントを書いているのだが、なかなか思うように筆が進まないのだと言う。設定までは書けるんだけど、そこから先の展開が進まなくて、いつも挫折してしまうんだそうだ。失礼ながら、吹き出しそうになった。18歳でそんな理由で焦っているなんて...。瞳に憂いをたたえながら、トボトボ歩く彼に蹴りを入れそうになった。この仕事をしている人の多くがなにかしら焦り、自分に才能はあるのかと頭を抱える日々を送っている。怒りと笑いが入り混じりながら、これも何かのパフォーマンスかと考えてしまう自分が卑しく感じる。
人気デザイナー「いろいろ不安でしょうがない。だから手当たりしだい動く」
「私は絶えずいろいろなことが不安でしょうがないの。だから、手当たりしだい動くようにしている。そうすると何か糸口というか、道が開けたりして今がある」と話をしてくれたのは、取材したインダストリアル・デザイナーの女性だ。30代後半の彼女の作品やオシャレな生活そのものが、いま若い女性から支持を集めている。
人間は確かに不安になることが多い。その不安をエネルギーに変えて成功している人も少なくない。でも、根底にあるものを聞いていくと、結局は負けず嫌いという性格が由来していることが徐々に分かってきた。人に負けたくない、自分が落ち込んだ時に誰かが素晴らしい作品を発表したら、この先ないんじゃないか...。そんな不安を負けず嫌いの性格が、絶えず精神を休めることなく働かせている原動力らしい。なるほどね、だけどなんだか疲れるな。
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。