切ない恋愛劇を白黒無声で描いた「アーティスト」(11)で米アカデミー賞作品賞、監督賞を受賞したミシェル・アザナヴィシウス監督。新作「あの日の声を探して」は作風一変。チェチェン紛争に巻き込まれた3人を描く人間ドラマだ。
二つの線を重ねた構成が秀逸
99年、チェチェン。9歳の少年ハジ(アブドゥル・カリム・ママツイエフ)は、ロシア軍兵士に目の前で両親を殺される。ショックで声を失い、赤ん坊の弟を見知らぬ家の玄関先に置き、ひとり放浪の旅に出たハジ。やがてフランスから調査に来たEU職員のキャロル(ベレニス・ベジョ)に出会い、心を通わせる。キャロルは幼いハジを守る決意をする。
一方、ロシア軍に強制入隊させられたコーリャ(マキシム・エメリヤノフ)は、過酷な任務、罵倒と暴力で心が壊れていく。人間性は失われ、普通の青年が戦争の道具に変わる。両親を惨殺された少年、無力さに絶望するEU職員、「人間兵器」に仕立てられた青年。3人のドラマが交差する。
原案はフレッド・ジンネマン監督の「山河遥かなり」(47)。ナチスの収容所に送られ、母と生き別れた少年を米兵が助ける物語だ。舞台はチェチェンに移され、説明描写は徹底的に排除され、観客は紛争に巻き込まれた人たちを目撃する。戦争の被害者への助けと友情。逆に加害者ができあがる過程。二つの線を重ねた構成が秀逸だ。非情な現実にもうならされる秀作である。
「あの日の声を探して」(2014年、仏・グルジア)
監督:ミシェル・アザナビシウス
出演:ベレニス・ベジョ、アネット・ベニング、マキシム・エメリヤノフ、アブドゥル・カリム・ママツイエフ、ズクラ・ドゥイシュビリ
2015年4月24日(金)、TOHOシネマズ シャンテほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
記事提供:映画の森
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