1944年8月。ドイツ軍占領下の仏パリ。高級ホテル"ル・ムーリス"に駐留する同軍のパリ市防衛司令官コルティッツ将軍に電報が届く。「連合軍に防衛線を突破された」との知らせだった。いよいよ撤退。作戦決行だ。
ヒトラーが計画した"パリ壊滅作戦"。自国の首都ベルリンが空襲で廃墟と化したのに、パリだけが無傷で美しい姿を保っている現実に我慢ならない。それだけの理由で、撤退時にはパリを爆破せよと言うのである。もはやドイツに活路はなく、今さらパリを壊滅させたところで、戦局が好転するわけではない。戦略的には無意味な作戦だった。
コルティッツも、作戦の馬鹿馬鹿しさは百も承知である。しかし、ヒトラーの命令に逆らえるわけがない。コルティッツに選択の余地はないように思えた。ところが、作戦の決行に向けて一歩踏み出したその時、突如スウェーデン総領事ノルドリンクが現われ、コルティッツに翻意を迫る――。
やがて弱みさえ見せ始めるコルティッツ
"パリ壊滅作戦"を未遂に導いたスウェーデン人外交官とドイツ軍司令官のスリリングな駆け引きを描いた「パリよ、永遠に」。フランスで大ヒットした舞台劇を、同じキャストでフォルカー・シュレンドルフ監督が映画化した。第二次世界大戦末期の史実に基づいた物語である。
ノルドリンクはパリ生まれのパリ育ち。愛するパリを何としてでも守りたいと思っている。一方、コルティッツにとってヒトラーの命令は絶対。背けば妻子の命が危険にさらされる。ノルドリンクは手を変え品を変え説得を試みるが、コルティッツの決意は揺るがない。それでもノルドリンクはあきらめない。
ノルドリンクの熱心な説得に、やがて心を開き、弱みさえ見せ始めるコルティッツ。人間味あふれる姿が感動的だ。ドイツ将校というと冷血で狂信的な人物に描かれがちだが、コルティッツはまったく正反対。話せば分かる。聞く耳を持っている。貴族の家に生まれ、教養も豊か。だから、ノルドリンクとも対等に議論ができる。そして最後は自分の責任において、ノルドリンクの提案に従うのである。
もし、コルティッツが単なるヒトラーの心酔者であり、忠実な部下であったなら、コルティッツの努力は報われず、パリは焼き尽くされていただろう。原題は「Diplomatie(外交)」。歴史が大きく動く時、その舞台裏では外交という名のスリリングな駆け引きが行われていることを、改めて思い知らせてくれる映画だ。
「パリよ、永遠に」(2014年、仏・独)
監督:フォルカー・シュレンドルフ
出演:アンドレ・デュソリエ、ニエル・アレストリュプ
2015年3月7日(土)、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトで。
記事提供:映画の森
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