辛酸なめ子の東京アラカルト#2 青山パン祭りの高揚

なぜ、日本人はこれほどパンを必要としているのでしょう......。メロンパンフェスティバルの入場券に申し込もうとしたら追加発売も含めて即完売。雑司ヶ谷の「はるのパン祭り」に昼頃行ったら、全て買い尽くされてパン屋さんは撤収。何もない広場が広がっていました。パン好きの貪欲さには毎回驚かされます。私も数年前までパン中毒気味で、買っても買っても買い足りないパン依存の症状は実際に体感しております。

数か月に1度、国連大学前の広場で開催されている「青山パン祭り」。毎週末に野菜やオーガニックフードが売られる市場、ファーマーズマーケットが行われているのですが、パン祭りの会場はその奥になります。前に行ったらやはり結構売り切れていて、野菜を売っているおじさんが「パン、やばいね」と怯え気味でした。

 

レア感とおしゃれ感が完売の条件

 

その「青山パン祭り」に久しぶりに行ったら、開催頻度が高いからか、ありがたいことにお昼頃の時間帯でまだパンが残っています。売り切れていたのは、充麦という三浦のお店、おへそカフェという広島と岡山のお店、SOPOという移動販売のベーグル店など。やはりなかなか行きにくい、レア度の高いところから売れていくのでしょうか。

お昼にすでに完売しているお店も。店員さんは余裕の表情です。

メジャーなチェーン店も参入しているのですが、品数とスタッフ数で勝負していて、パンフェスビギナーが勢いに押されて買っていっている印象でした。マニアック系では、クンバ ドゥ ファラフェルというお店のファラフェルサンドは、会場から近い神泉のお店でしたが売り切れていて、店の住所をあまり出していないのが良かったのかもしれません。ファラフェルサンドというのも健康志向で訴求力がありました。健康といえば、小麦粉のかわりに青バナナの粉を使ったドーナツやスコーンがCOUZT CAFEというお店で販売。「グルテンフリーです!」と、周りのお店にケンカを売っているような挑戦的なアピールでした。

パンイベントでは圧倒的に野菜が不足していて、どこで買ったのか大きなサラダボウルを持っている人がいて、羨望の目で追ってしまいました。パンはあっても、ドリンクの店が少なくて、椅子も限られているので、日陰を見つけて地べたに座り込み、飲み物なしでパンを食べるという結構過酷な環境です。それでも小麦と糖分で一抹の幸福感は得られるのです。

地方のパン屋を集めたブースには長蛇の列が。パン好きの女性はロハスな雰囲気です。

どのお店も展示がおしゃれで、通りすがりの女子が「雰囲気勝ちだね」と言っていましたが、パンは酵母や小麦粉とともにおしゃれなイメージを売る時代になっています。素朴だけれどおしゃれな雰囲気じゃないパン屋は、売れ切れていなかったです。しかしちょいダサくらいのパン屋のほうが味は確実な気がしますが......。中でも長野県の野良屋というパン屋のおじさんが澄んだ瞳で周囲を浄化していました。隣のパン屋の人に「薪で焼いているんですか? すごいですね」と感嘆されていましたが、信州の森の中で地元の材料を使ってパンを作っているそうです。そのパン屋さんにはリスも訪ねてくるとかで、おとぎ話の世界です。このお店で買ったパンは薪と言われれば薪感のある、滋味深い味でおいしかったです。

パン屋の近くの出現した動物たちの写真を見せる信州から来たベーカリーの男性。

他に購入したのは、移動販売車の明太パン、鎌倉のパン屋のメロンパン複数個、地方のパンを集めたブースで山形のクリームパンと栃木のメロンパン、青バナナの粉のスコーン、その他、スコーンやマフィーン、クッキーなど目に付いたものを、息を吸うように買いまくって気付いたら3000円くらい使っていました。しばらくパン中毒を脱していたつもりだったのですが、パンはやはり人間の理性を失わせるものがあります。脳内パン祭りは終わりません......。

 
辛酸なめ子

1974年、千代田区生まれ、埼玉育ち。漫画家・コラムニスト。著書に、『消費セラピー』(集英社文庫)、『女子校育ち』(ちくまプリマー新書)、『女子の国はいつも内戦』(河出書房新社)、『なめ単』(朝日新聞出版)、『妙齢美容修業』(講談社文庫)、『諸行無常のワイドショー』(ぶんか社)、『絶対霊度』(学研)などがある。

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