(C)2015 CJ E&M, WOO SANG FILM
病院で寝ているだけで報酬30万ウォン(3万円弱)がもらえる――。おいしい条件につられて参加した製薬会社の臨床実験。ところが、薬の副作用で上半身が魚へ突然変異してしまう。「フィッシュマンの涙」は、泣くに泣けない悲劇に見舞われた若者パク・グをめぐる物語だ。
なぜ? 誰も驚かないんだ...!
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人魚(マーメイド)とは逆に、上半身が魚。シュルレアリスムの画家ルネ・マグリットの作品「共同発明」に想を得たという造形は不気味ではあるが、ギョロッとした目と厚い唇に愛嬌がある。モンスターというより、着ぐるみの"ゆるキャラ"といった感じ。とはいえ、本人にとっては深刻な事態である。
なのに、父親もガールフレンドのジンもパクに同情するどころか、金もうけの手段としか考えようとしない。自宅にかくまってくれた新人記者サンウォンも、製薬会社相手に戦う人権派弁護士も、あくまで自分たちの仕事が第一。どこまで親身になってくれているのか分からない。世間もパクに同情する人々がいるかと思えば、排除しようとする者もいる。
面白いのは、父親やジンをはじめ、魚人間のパクを目にする誰もが大して驚かないことだ。それどころか、父親は対面するや開口一番「勉強もしないで何してる!」と息子の魚顔にビンタを食らわす。内容はシリアスだが、こういうコミカルな演出が全編にあふれていて、笑いが途切れない。
平凡なフリーターのパク。無名大学卒のサンウォン。ネットの投稿マニアであるジン。いずれも、社会の片隅でひっそり生きてきた人々だ。だから、金や地位に目がくらむのも仕方ないのだろう。各キャラクターに納得できるバックグラウンドがあるので、ストーリー展開に無理がない。
製薬会社を相手取った訴訟での敗訴。パクの魚化の進行。そんな中、サンウォンも、ジンも、そしてパク自身も、気持ちに変化が生じていく。そして、最終的にパクが下した決断とは。
格差社会、拝金主義、メディアの暴力──。日本はもちろん、どの先進国にも共通する問題をえぐり出し、各国の映画祭をにぎわせた話題作。「オアシス」、「ポエトリー アグネスの詩」の巨匠、イ・チャンドン監督が脚本に惚れ込み、エグゼクティブ・プロデューサーとして参加している。
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「フィッシュマンの涙」(2015年、韓国)
監督:クォン・オグァン
出演:イ・グァンス、イ・チョニ、パク・ボヨン
2016年12月17日(土)、シネマート新宿、HTC渋谷ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。