愛媛県松山市を舞台に若者の欲望と狂気を描いた青春群像劇「ディストラクション・ベイビーズ」。「イエローキッド」、「NINIFUNI」の真利子哲也監督初の商業作品となる。
松山西部の港町・三津浜。海沿いのプレハブ小屋に芦原泰良(柳楽優弥)と将太(村上虹郎)の兄弟は暮らしている。日々けんかに明け暮れる泰良は、育ての親(でんでん)の忠告を聞かず、ある日ぷっつり姿を消す。
しばらく後、松山の中心街。失踪した時と同じ作業服姿の泰良が姿を現した。ギターを抱えた長身の男を見つけた泰良は、後を追い突然殴りかかる。その場では反撃されて打ちのめされたものの、泰良は男を追いかけライブハウスに乱入。男と従業員を殴って立ち去る。
限界を超えて挑発的な作品
街で学生やヤクザを見つけてはけんかを吹っかけ、ボロ雑巾のように殴り殴られるが、翌日にはまた現れて「獲物」を物色する泰良。そんな姿を興味津々で見るのが高校生の裕也(菅田将暉)だった。ゲームセンターで泰良に襲われ、服まで奪われたにもかかわらず、強烈な狂気に引きつけられ行動をともにするようになる。一方、兄の目撃情報をつかんだ将太は、仲間とともに行方を追う。
気の小さい裕也は泰良と一緒なって調子に乗り、商店街で無差別に通行人に襲いかかる。事件はネットで拡散され、警察とマスコミを巻き込む大騒動に発展。さらにテンションが上がった裕也は車を強奪。乗っていたキャバクラ嬢の那奈(小松菜奈)を誘拐し、事態はあらぬ方向へ動き出す──。
泰良を演じた柳楽がいい。せりふはほとんどなく、「楽しければええけん」と、殴り合いに明け暮れる青年。久々の当たり役だ。泰良を崇拝し、暴力に傾倒する菅田のはじけた演技がキーになる。饒舌な裕也が寡黙な泰良を引き立て、得体の知れない負のオーラに包まれた柳楽が、異様なまでの貫禄を見せる。
生温かい時代の空気を読み取った真利子監督は、うっぷんを晴らすように泰良を平和な街に解き放ち、人々を狂乱のるつぼに陥れる。あえて人物像を掘り下げず、未知なる怪物のような凄みを与えた演出がうまい。限界を超えて挑発的な作品だ。
「ディストラクション・ベイビーズ」(2016年、日本)
監督:監督:真利子哲也
出演:柳楽優弥、菅田将暉、小松菜奈、村上虹郎、池松壮亮
2016年5月21日(土)、テアトル新宿ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。