小さな部屋で、7歳の少年と母が暮らしている。母は7年前、10代のころ男に誘拐され、この部屋に監禁された。2年後に生まれたのが少年だ。男はたまにやってきて食品などを置いていく。その時少年はタンスに隠れ、男が帰るまで息を潜めている。その間、男が母に何をしているか。少年は理解していないだろう。
少年は部屋の外の世界を知らない。テレビで見る世界はニセモノだ。そう母に言い聞かされて育った。だから、狭い部屋での生活に不満は感じていない。母はとっくに逃亡をあきらめたのだろう。息子と過ごす毎日を楽しんでいるように見える。
そんな母がある日、息子に外界の存在を教える。息子は混乱しながらもに興味を示す。そんな息子を見て、母は脱出を決意する。脱獄物語の古典「モンテ・クリスト伯」をヒントにした大胆な脱出作戦は見事に成功。2人は部屋から解放される。
元の生活へのカムバックは厳しかった
だが本題はここからである。少年にとっては、新しい世界へのチャレンジ。母にとっては、元の生活へのカムバック。厳しい現実が母子を待ち受ける。「ルーム」は、不条理な暴力によって現実世界から遠ざけられた母と子が、自らの力で閉ざされた扉をこじ開け、再生を図る物語である。
外気、道路、自動車、他人──。部屋を脱出し、初めて体験する外の世界に、少年は驚き戸惑う。母と収容された広く清潔で見晴らしのよい病室も、狭い部屋に慣れた少年には、居心地悪く感じられた。
それでも優しい祖父母のもと、少年はだんだんと新しい生活になじんでいく。祖父からプレゼントされた犬をかわいがり、近所の子供とも遊べるようになる。発見と学習の日々が続いていく。世界がどんどん広がっていく。
しかし、母は違う。人生で最も光り輝いていたはずの青春時代を奪われ、監禁と虐待の7年間を強いられたのだ。その間に家族も社会も大きく変化してしまっていた──。
外へ出たことで、母子の立場が逆転する。2人が過去から決別し、新しい人生へのスタートを切るラストシーンに心が揺さぶられる。
「ルーム」(2015年、アイルランド・カナダ)
監督:レニー・アブラハムソン
出演:ブリー・ラーソン、ジェイコブ・トレンブレイ、ジョアン・アレン、ショーン・ブリジャース、ウィリアム・H・メイシー、トム・マッカムス
2016年4月8日(金)、TOHOシネマズ新宿、TOHOシネマズシャンテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。