『ショウ・ボート』(1972年)に始まる約90年のブロードウェイミュージカルの歴史の中で、最高傑作を1作品選ぶとしたら、ほとんどの人が『ウエストサイド物語』をあげるでしょう。
創作のきっかけは、ジェローム・ロビンス、レナード・バーンスタイン、アーサー・ロレンツという天才達が、シェイクピアの戯曲をミュージカル化したいと考えたことに始まります。彼らに、後にブロードウェイの巨匠となる若きスティーブン・ソンドハイムが加わり、ドラマと見事に融和した雄弁でエネルギッシュなダンス、高度な技術が駆使された緻密かつメロディアスな音楽など、完璧ともいえる作品が生まれたのです。
先月中旬より、浜松町の四季劇場[秋]では、劇団四季による新演出版の『ウエストサイド物語』がオープンし、大変な話題となっています。
今も解決していないアメリカ社会における移民がテーマ
本作のブロードウェイ初演は1957年。シェイクスピアの「ロミオ&ジュリエット」をベースに当時のアメリカ社会の背景を織り込みつつ、ともに社会から差別されるイタリア系移民とプエルトリコ系移民の若者グループの抗争と、その犠牲となる男女のわずか2日間の恋を描きます。60年経った今でも、ヨーロッパ各国に押し寄せる難民問題や、アメリカの大統領候補者による移民排斥という過激な発言など、この作品の描きだした問題が何ら解決できていないまま存在し続けていることには驚きを禁じえません。
このミュージカルが日本に初めて入ってきたのは、1961年製作の映画版でした。リチャード・ベイマー、ナタリー・ウッド、ジョージ・チャキリス主演で、世界中で大ヒット。日本においても封切り後73週間という驚異的なロングランを記録しています。そのため、日本においては、舞台版を観たことがなくても、映画版で知っている人が多いようです。
舞台版は、1964年に開場間もない日生劇場においてブロードウェイからの来日公演が行われ、日本人キャストによる公演はその10年後の1974年、劇団四季によって上演されました。海外オリジナルスタッフによるダンス猛特訓の末、本場と遜色ない舞台が展開され、劇団四季の名前は日本だけでなく本場ブロードウェイにも一躍鳴り響いたといいます。
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