1960年代、若松孝二監督に師事し、反体制的なピンク映画の脚本・監督を手がけ、カルト的人気を集めた映画作家、足立正生。70年代にはパレスチナ革命に身を投じ、重信房子率いる日本赤軍に合流、国際指名手配された。
97年にレバノンで逮捕抑留された後、日本に強制送還され、赤軍メンバー岡本公三がモデルの「幽閉者 テロリスト」(07)で監督復帰。本作「断食芸人」は、同作以来9年ぶりに足立監督がメガホンをとった待望の新作だ。カフカの短編を原作に、今日の日本のゆがんだ社会状況を照射した、シュールな"紙芝居"。足立監督は、「檻(おり)の中の主人公と檻の外の人々と、果たしてどちらが自由なのか」と語った。
無理やり断食芸人にさせられ、檻の中に閉じ込められた主人公
カフカの「断食芸人」を映画化する話はかなり前からあったそうだ。しかし、最後の資金集めの段階で"テロリストの足立"だと分かると、出資者がいったん差し出した手を引っ込めてしまう。企画はなかなか実らなかった。
「だったら、自分だけでできることをやろう。短編オムニバスみたいな形で、断片的に作品を撮りためていこうかなと。広島の原爆でやけどを負った"ケロイド芸人"とか、いろいろな芸人のシリーズを構想していた」
そんなことを考えていた矢先に、韓国の光州広域市から映画製作の依頼が舞い込む。
「2015年9月にオープンするアジア芸術劇場のこけら落としに何か1本作ってくれという。それなら、『断食芸人』をやろうと」
かくして、ついに日の目を見ることになった「断食芸人」。カフカの短編をベースにしてはいるが、主人公の人物像はカフカの原作とだいぶ違う。主人公は最初から断食芸人なのではなく、まわりの人々から勝手に断食芸人へと仕立て上げられてしまうのだ。
「何もしない、何も喋らない主人公を真ん中において、そのまわりにいろいろな人が集まってきて、彼を見世物にして、騒ぐ。そういう構造を"紙芝居"のようにして見せたかった。無理やり断食芸人にさせられ、檻の中に閉じ込められた主人公と比べ、檻の外の人は果たして自由なのか。彼らは自由という名の檻の中に入っているんじゃないか。そんな問題提起をしたかった」
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