2009年、日本のイルカ漁をテーマとした米国のドキュメンタリー映画「ザ・コーヴ」が公開された。内容は一方的にイルカ漁を批判するもので、事実の改ざんや映像加工、編集による印象操作など、アンフェアな作り方が目立った。
にもかかわらず、同作は米アカデミー賞を受賞。日本の捕鯨(イルカ漁・クジラ漁)に対する負のイメージは世界中に流布された。04年には、オーストラリアが国際司法裁判所に「日本は調査捕鯨を装い商業捕鯨を行っている」との訴えを起こし、日本は南極での捕鯨を停止させられた。
そんな状況に業を煮やしたのが、八木景子である。本作「ビハインド・ザ・コーヴ 捕鯨問題の謎に迫る」の監督だ。子供の頃に給食に出た鯨の竜田揚げ。あの美味しさが忘れられない八木は、このままでは鯨食という日本の伝統的食文化が絶えてしまうという危機感から、自ら捕鯨問題の背景を探ることを決意する。
捕鯨の是否を論じる前に観ておいた方がいい
「ザ・コーヴ」の舞台となった和歌山県・太地町に赴いた八木は、元捕鯨師や町長、そして反捕鯨活動家らにインタビューを敢行。「ザ・コーヴ」の監督ルイ・シホヨスや、主演のリック・オバリにも話を聞き、反捕鯨運動を促したものは何だったのかを問いつめていく。
捕鯨国はほかにもあるのに、なぜ日本だけが標的とされたのか? なぜイルカやクジラだけが特別視されるのか? 「ザ・コーヴ」の捏造箇所に対し、なぜ日本側は反論しなかったのか? さまざまな疑問が解消されていく中で、議論は思いもかけぬ方向へ発展していく。
20世紀初頭まで続いた鯨油目当ての米国による鯨の乱獲。アングロサクソンの多民族侵略。第二次世界大戦......。科学者やジャーナリストなど、取材対象が広がるにつれ、捕鯨が文化の衝突という単純な問題に還元できるものではないことが分かってくる。そしてついに暴かれる衝撃の事実。「鯨の竜田揚げか懐かしい」。そんな思いから始まった探求の旅は、驚くべき陰謀の発見へとたどり着くのである。
捕鯨論争は今後も続くだろう。しかし、捕鯨の是否を論じる前に、まずはこの映画を見て、反捕鯨の動きが、いつ、どのようにして始まったのかを知っておいたほうがよいのではないか。
「ビハインド・ザ・コーヴ 捕鯨問題の謎に迫る」(2015年、日本)
監督:八木景子
出演:ルイ・シホヨス、リック・オバリ、森下丈二、諸貫秀樹、デヴィッド・ハンス
2016年1月30日(土)、K's cinemaほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。