グスタフ・クリムトの名画にまつわる数奇な実話を、英国を代表する名女優ヘレン・ミレン主演で描いた「黄金のアデーレ 名画の帰還」。監督は「マリリン 7日間の恋」のサイモン・カーティス。
米ロサンゼルス。82歳のユダヤ系移民、マリア(ミレン)は決意する。「ナチスに奪われた伯母の肖像画を取り戻したい」。オーストリアの美術館にあるクリムトの名画「黄金のアデーレ」は、伯母がモデルだったのだ。
演技の手本を見せる先輩のようでもある
マリアを助けるのは友人の息子で弁護士のランディ(ライアン・レイノルズ)。二人はウィーンへ飛び、マリアの若き日の足跡をたどる。幼い日々の明るい記憶、華やかだった結婚式、芸術家が多く出入りした生家。そんな中の一人だったクリムトは、美しいアデーレの肖像画を描いた。しかし、裕福なユダヤ系家族の幸せな日々は、ナチスの侵攻により一瞬で砕かれる。
マリアにとって故国は、二度と足を踏み入れたくない場所でもあった。喜びと悲しみが共存する場所。そんなマリアの思いを地元のジャーナリスト、フベルトゥス(ダニエル・ブリュール)が聞き、協力を申し出た。やがてアデーレの遺言書が見つかるが──。
1枚の絵をめぐる壮大な実話を、丁寧な検証と脚本で描いた作品。幼き日々の満ち足りた記憶、幸せだった日々。ナチスに祖国を追われ、財産も家族も奪われ、異国の果てで人生の終盤を迎えた女性。時間と記憶の積み重ねを、ただそこにいるだけで表現する。マリアを演じたミレンの存在感が圧倒的だ。
両脇を固めるレイノルズ、ブリュールも好演。目的をともにする同志でもあり、マリアを支える家族のようでもあり、演技の手本を見せる先輩のようでもある。若い二人を率いて毅然と戦うマリアに、励まし励まされる作品だ。
「黄金のアデーレ 名画の帰還」(2015年、米・英)
監督:サイモン・カーティス
出演:ヘレン・ミレン、ライアン・レイノルズ、ダニエル・ブリュール、ケイティ・ホームズ、タチアナ・マズラニー
2015年11月27日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。