今年の米アカデミー賞でJ・K・シモンズの助演男優賞、編集賞、録音賞と3部門を制した音楽映画「セッション」。監督・脚本は撮影当時28歳の新鋭デイミアン・チャゼル。製作費3億円、19日間で撮り上げた作品だ。
名門音楽大学に入学したドラマーのニーマン(マイルズ・テラー)は、伝説のジャズドラマー、バディ・リッチに憧れている。特定の友人もなく、放課後は父と映画館で古い白黒映画を楽しみ、映画館の売店で働くメリッサ(ブノワ・ニコル)に好意を寄せている。
ある日、ニーマンは鬼教師フレッチャー(J・K・シモンズ)のバンドにスカウトされる。彼に認められれば、偉大な音楽家になれる──夢はかなったも同然、と喜ぶニーマン。だが、待っていたのは0.1秒のずれも許さず、異常な完璧さを求めるフレッチャーの「狂気のレッスン」だった。
ニーマンは当初、サポート的位置の副奏者としてスタートした。自信をつけるにつれて勢いに乗り、メリッサに交際を申し込み、OKをもらう。順風満帆に見えた学生生活だったが、フレッチャーのスパルタ教育と心理的なわなで崩れ始める。
フレッチャーの教え子の死が伏線
テーマは音楽だが、描き方はスポーツ根性ものに近い。鬼教師の仕打ちで緊張感が張り詰め、サスペンスに近い恐怖が迫りくる。シモンズは圧倒的な存在感で作品を支配する。若い学生たちに罵声を浴びせ、ビンタを張り、物を投げつける。戦争映画「フルメタル・ジャケット」(87)の鬼軍曹さながらだ。ヘビのようなフレッチャーににらまれ、学生はカエルのようにすくみ上がる。
そんな中、ニーマンはフレッチャーの期待に応えるため、汗と涙の猛特訓を続ける。スティックを握る手から血が流れ、ドラムは赤く染まる。そこへ追い打ちをかけるように、フレッチャーが心理的プレッシャーを与える。追い詰められたニーマンは、恋人との関係すら断ち切ってしまう。
音楽を通じた美しい師弟関係は、この映画に存在しない。どこまでも高圧的な完全主義者、フレッチャー。期待に応えるため精神のバランスを崩していくニーマン。フレッチャーの教え子の死が伏線となり、ニーマンに巨大なわなが襲いかかる。怒涛のクライマックスまで予想外の展開が続く。
壮絶な師との関係を経て、ニーマンは真のドラマーになれるのか。肉体と精神の戦いを攻撃的に、緊張感たっぷりに描き出す。シモンズ、テラーの熱演は圧倒的。筆舌に尽くしがたい素晴らしさだ。
「セッション」(2014年、米国)
監督:デイミアン・チャゼル
出演:マイルズ・テラー、J・K・シモンズ、メリッサ・ブノワ、ポール・ライザー、オースティン・ストウェル
2015年4月17日(金)、TOHOシネマズ新宿ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。