ミュージカル『タイタニック』は1997年にブロードウェイにて初演。誰もが知る、英国客船タイタニック号沈没事故をもとに、その緻密なドラマ性と洗練された歌詞・楽曲が高い評価を受け、その年のトニー賞でミュージカル作品賞をはじめ5部門を受賞しました。日本では2007年と2009年に日本人キャストで上演されています。
『タイタニック』と聞けばジェームス・キャメロン監督の大ヒット映画を思い浮かべる人が多いと思います。映画はあくまでタイタニック号の沈没という歴史上の出来事をベースに作り上げたフィクションです。一方、ミュージカル版は、史実に基づいて物語が作られており、登場人物はすべて実際に乗船した実在の人物たちで、彼らが胸に抱いていた夢や希望がテーマとなっています。自分たちを待ち受ける運命を知らず、三等客の移民たちはアメリカでのより良い暮らしを夢見て、公民権を与えられたばかりの二等客たちは富と名声を手にした人生を望んで、一等の富裕層は輝きに満ちた自分たちの世界が永久に続くことを願ってタイタニック号に乗っていました。彼ら一人一人の人生を美しいメロディとともに描く傑作ミュージカルです。
新たな解釈も加えた新バージョン
ブロードウェイのオリジナル版は、「船」そのものが主役であるという解釈のもと、多額の費用をかけて豪華客船を舞台上に再現し、壮大な群集劇として仕立てたスペクタクル・ミュージカルでした。
タイタニック号沈没から100年を迎えた2013年。ロンドンで再演された新バージョンは、船の悲劇ではなく、実際にそこに生きた人々の物語であるという考えにより、台本への変更を細かく行い再構成されました。
沈没事故そのものに対しても新たな解釈でのアプローチがされています。沈没の責任は、一日も早くアメリカに到着するためにより高速な走行を促したオーナーなのか、オーナーの要求を断らず速度を上げ乗務員からの氷山の警告を無視した船長なのか、氷山との衝突で開いた穴から水が入り込むよう設計にした設計士なのか。一般的にはオーナー側に非があるという解釈がされ、ブロードウェイのオリジナル版もそれを踏襲していました。今回の新バージョンでは、誰かに非があるかではなく、それぞれが自分のできるベストを尽くした結果、偶然が重なって起こった悲劇である、と事件全体を捉え直しています。
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