「女っ気なし」(2011)のギヨーム・ブラック監督が、再びヴァンサン・マケーニュ主演で撮った初の長編作品。ミュージシャンとして盛りを過ぎた中年男マクシムが、若い女性記者メロディと恋仲になるが、やがてメロディはマクシムの前から姿を消してしまう――のが中盤までの展開だ。
「女っ気なし」の気弱な主人公であれば、女が去った時点であきらめてしまうだろう。だが、マクシムはなかなかしぶとい。せっかく手に入れた恋人を手離してなるものかと、驚きの"恋人奪還劇"を繰り広げる。
マクシムは狂気の行動に出る
今でこそ風采の上がらないマクシムも、かつてはロック・ミュージシャンとして、そこそこ売れていた。モテた時期もあったろう。地元の田舎町では一応名士でもある。田舎の小娘にあっさりフラれるなんてあり得ない。そう思ったとしても不思議ではない。
実際、強気に攻めてあっさりメロディをモノにしてしまうのだし、燃え上がる情熱の赴くまま、ロマンチックな冬のバカンスを過ごしたりもするのだ。なのに彼女は突如失踪してしまう。いったい、なぜ? 割り切れない気持ちから、マクシムは狂気の行動に出る。中年男の一途な恋心は娘に通じるのか。中盤以降の展開は極上のラブサスペンス。意外な結末には、女心の不可解さを思い知らされる。
物語の核は二人の恋愛だが、もう一つ重要なのがマクシムと父親との関係である。やや人生に疲れた感のあるマクシムに対し、アウトドア・スポーツを好み、いまだ女性関係の絶えない父親は好対照。父親の生きるエネルギーがマクシムの消えかけた情熱に火を付けたか。エンディングに漂うほのかな希望も、父親の存在あってこそだろう。
父親役は、ヌーヴェル・ヴァーグの伝説的な監督であるジャック・ロジエの「オルエットの方へ」(71)や「メーヌ・オセアン」(86)に出演したベルナール・メネズ。前作「女っ気なし」はロジエの影響を感じさせる作品だったが、今回メゼズを起用したのも、ロジエへのオマージュなのかもしれない。
「やさしい人」(2013年、フランス)
監督:ギヨーム・ブラック
出演:ヴァンサン・マケーニュ、ソレーヌ・リゴ、ベルナール・メネズ
2014年10月25日(土)、ユーロスペースほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトで。
記事提供:映画の森
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