特撮番組で特別なスーツを身につけ、ヒーローを演じるスーツアクター。東映アクションクラブ出身の唐沢寿明、「イン・ザ・ヒーロー」で原点回帰だ。唐沢は16歳から数年間、アクション俳優を目指したという。監督は「ボーイ・ミーツ・プサン」の武正晴。
アクション俳優を目指しても、スターになれるのは一握り。多くは裏方的なスーツアクター、大部屋俳優、スタッフに転じるほかない。本城渉(唐沢)はそんな一人。スーツを着て25年目で、アクションクラブの社長。多くの若手を指導する立場でもある。別れた元妻の淳子(和久井映見)、中学生の娘・歩(杉咲花)がいた。
「いつか顔を出して演じたい」と願う本城のもとに、ヒーロー番組の映画版で出演する話が舞い込む。しかし、夢見たのもつかの間。人気絶頂の新人・一ノ瀬リョウ(福士蒼汰)に役を奪われる。本城からアクションの基礎を学ぶリョウは、当初は横柄な態度で衝突するものの、次第に溝は埋まり仲間意識が芽生える。そんな中、本城にハリウッド大作への出演依頼が来る。しかしそれは、命を落としかねない危険なスタントだった──。
大部屋俳優の悲哀を描いた「蒲田行進曲」の現代版
名前も顔も知られぬスーツアクター。「イン・ザ・ヒーロー」は、大部屋俳優の悲哀を描いた深作欣二監督作「蒲田行進曲」(82)の現代版といえる。クライマックスはいずれも危ない大規模スタントだ。「イン・ザ・ヒーロー」では忍者が高いセットから飛び降り、火だるまになりながら100人斬りに挑む。ワイヤーもCGも使わず、ワンショットで撮影。唐沢がアクション俳優として培った技を披露する。
スーツアクター=日陰の存在に光をあてた着眼点がい。ポリシーを貫く本城、本城と出会い成長するリョウ。人間ドラマも掘り下げる。軽妙な話の中、重鎮的な松方弘樹が東映作品の彩りを添える。「宇宙刑事ギャバン」の主題歌で知られる串田アキラの劇中歌、特撮物の楽屋落ち的な寺島進と黒谷友香の起用。スーツアクター、スタントマンへの愛が散りばめられ、エンドロールで彼らにオマージュを込めた。"アクション俳優・唐沢寿明"の覚醒にも拍手を送りたい。
「イン・ザ・ヒーロー」(2014年、日本)
監督:武正晴
出演:唐沢寿明、福士蒼汰、黒谷友香、寺島進、草野イニ
2014年9月6日(土)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。