"闇金"の取り立て屋ガンド(イ・ジョンジン)。融資先の町工場で借金を回収するが、やり口がすさまじい。工具を使い、屋上から突き落とし、債務者に重傷を負わせ、保険金で返済させる。彼らの人生がどうなろうと、知ったことではない。腕を失おうと、障害者となって働けなくなろうと、どうでもいい。金さえ回収できればいい。冷酷非情なチンピラ。
そんなガンドの前に、一人の女性(チョ・ミンス)が現れる。「生まれた時にお前を捨てた母だ」と言う。にわかに信じられないガンドは追い返す。だが拒まれても、邪険にされても、女性はあきらめずやってくる。涙を流して許しを乞い、ガンドに尽くし続ける。
それなのに、なんということか。ガンドは女性の股間に手をやると「ここから俺は生まれたのか? ここに戻ろうか?」と言い、犯してしまう。鬼畜である。それでも女性は献身的であることをやめない。不気味なまでに。
やがてガンドは女性を母と信じるようになる。人生に欠かせない存在となり、母として愛するようになる。しかし、女性はある日、突然姿を消す――。
リアリズムと寓話性の、奇跡のような融合 鬼才の完全復活だ
果たして彼女は本当に母親なのか。違うとしたら狙いは何なのか。謎解きのサスペンスは後半まで続く。ヒントは随所に配されている。冒頭に謎の核心をなすものが提示されてもいる。頭の隅にもやもやとちらついていた真相が、明瞭な像を結ぶ瞬間の、ぞっとする感覚。真に冷酷なのはガンドなのか? それとも女性なのか? 母の愛を知って人間性に目覚め、別人のように生まれ変わった主人公に、驚愕の真実が襲いかかる。
女性役のチョ・ミンス、ガンド役のイ・ジョンジン、いずれも瞠目(どうもく)すべき名演。ことに心の奥底に押し込めた感情を、眼の動きで描写したチョ・ミンスの演技は絶品だ。気高さとまがまがしさが表裏をなし、複雑精妙な表情が忘れがたい印象を残す。
2人の命をかけた終盤の急展開、凄絶かつ荘厳なラスト。キム・ギドク監督の真骨頂だ。「ブレス」(07)と「悲夢」(08)に物足りなさを感じ、才能の衰えを疑ったが、早計だったようだ。リアリズムと寓話性の、奇跡のような融合。ベネチア国際映画祭で、韓国初の金獅子賞(最高賞)獲得。鬼才の完全復活を告げる、文句なしの傑作である。
「嘆きのピエタ」(2012年、韓国)
監督:キム・ギドク
出演:チョ・ミンス、イ・ジョンジン
2013年6月15日、Bunkamuraル・シネマほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。